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元祖「家政婦は見た」 エミリー・ブロンテ「嵐が丘」のあらすじを解説1

 

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ニュースを見ていると毎日のように耳を塞ぎたくなるようなイヤーな事件が起こりますよね。特に家族をめぐる事件は、子供が犠牲になることも多く残虐性も際立っていると思います。虐待や洗脳や、信じられないような事件が今までにも起こってます。家族ゆえに逃れられない、そんな状況が救いのない結末を引き起こしてしまうのでしょう。

 

19世紀のイギリスの小説家エミリー・ブロンテが書いた小説「嵐が丘」はヒースクリフという男の復讐劇です。彼は孤児でしたが、「嵐が丘」の家族に拾われ、そこで虐待を受けて育ちます。彼の救いは同居する少女キャサリンでした。ヒースクリフとキャサリンは共に心惹かれあっていたのです。ところが彼女は別の男に嫁いでしまいます。その理由はかなり軽率なのですが・・・。ヒースクリフは絶望のあまり家を飛び出します。

 

それから3年、ヒースクリフは金持ちとなり「嵐が丘」に戻ってきます。しかし彼の目的はかつて自分を苦しめた一族に対する復讐でした。邪悪なヒースクリフは家族に入り込み、しだいに一族を蝕み精神的に支配していくのですが・・・・といった感じのストーリーです。

 

この小説を面白くしているのは、語りの手の女中ネリーおばさん。物語の大半はこの女中がロックウッドという男に自分が目撃した出来事を語っており、19世紀版の「家政婦は見た」といった感じなのです。

 

それにしてもこのネリーおばさん、なかなかのエンターテナーなんです。暗い過去の物語をすごい記憶力でユーモアたっぷりで語ってくれます。利き手のロックウッドと共に、我々読者もついつい物語に引きもまれてしまうのです。

 

それでは「嵐が丘」について、今回はヒースクリフが家出するまでのあらすじをご説明します。

 

あらすじを詳しく解説

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第一章 ロックウッド氏、大家さんに引っ越しのご挨拶に出かけるが・・・

舞台は19世紀のイギリス。鶫の辻(スラッシュクロス)にある屋敷にロックウッドという名の男が引っ越してきます。彼は大家に挨拶するため「嵐が丘」の屋敷を訪ねますが、大家のヒースクリフは大変不愛想で粗暴な男でした。

 

第二章 ヒースクリフが支配する奇妙な家族

ヒースクリフに興味を持ったロックウッドは再び嵐が丘を再訪します。屋敷には ヒースクリフの他に、生気のない美しい少女と、みすぼらしい青年が一緒に暮らしていました。少女はヒースクリフの死んだ息子の妻で、青年は「ヘアトン・アーンショウ」という名前であることがわかりますが、3人の人間関係はひどくゆがみ、いがみ合って暮らしているようです。

 

やがて雪が激しく降り積もり、ロックウッドは自宅に帰れなくなります。彼はヒースクリフに一晩泊めてほしいと願い出ますが、冷たく断られます。ロックウッドは途方に暮れますが、親切な家政婦ズィラが現れ、内緒で空き部屋をあてがってくれました。これで一安心?

  

第三章 ロックウッド氏、女の子の幽霊にうなされる

ロックウッドが案内された部屋には「キャサリン・アーンショウ蔵書」と書かた本があり、余白には彼女が書いたと思われる日記が記されていました。彼は日記を読みながら、いつのまにか眠ってしまします。ところが窓の外に日記の作者キャサリンの幽霊が現れたのです!彼は恐怖のあまり叫び声を上げ、ヒースクリフに見つかってしまいます。

 

ところが幽霊の話を聞いたヒースクリフは、一人密かにすすり泣くのでした。 

キャシー、さあ、こっちだよ。ああ、お願いだ ー せめてもう一度!ああ、我が心の愛しい人、こんどこそ聞き届けておくれ ー キャサリン、今日こそは!(新潮文庫 鴻巣友希子訳 以下引用はすべて同じ)

 

朝になるとロックウッドはようやく、この気味の悪い家族が住む家から逃れ、自宅に戻ることができたのでした。

 

第四章 家政婦は見た!  ネリーおばさんが二つの家族のなが~い物語を語る

「鶫の辻」の自宅に戻ったロックウッドは家政婦としてここで働いているネリー・ディーンに「嵐が丘」で見た家族について尋ねます。

 

ネリーが言うには、あの美少女の名はキャサリン・リントン。ここ「鶫の辻」のご主人様だったエドガー・リントンの娘だというのです。そして品のない青年ヘアトンは「嵐が丘」で代々続いた由緒正しいアーンショウ家の跡取りだというのです。

 

ネリーはかつて「嵐が丘」と「鶫の辻」の二つの家族で起こった悲劇を語り始めます。

 

 元々ネリーは「嵐が丘」のアーンショウ家で家政婦の娘として育ちました。そこにはご主人様と妻、そして二人の子供、兄ヒンドリーと妹キャサリン(キャサリン・リントンの母親)が暮らしていました。

 

ある日ご主人様はリバプールに出かけますが、町で飢え死にしそうな汚らしい孤児を拾い、嵐が丘に連れ帰ります。

 

孤児はヒースクリフという名を与えられ、ご主人様に溺愛されます。一方実の息子のヒンドリーは、父親の愛情を奪ったヒースクリフに憎しみを募らせていきます。

 

第五章 美しい小悪魔キャサリン嬢

ヒースクリフをいじめるヒンドリーは、ご主人さまに寄宿舎に入れられてしまいます。

 

ご主人様にとって娘のキャサリンも悩みの種でした。キャサリンは我を通すところがあるお転婆娘に育ちます。しかしその美しさといったら、その教区でかなうものはいません。また兄のヒンドリーとは違い、キャサリンはヒースクリフが大好きで、いつも二人で過ごすようになります。

 

しかしヒースクリフの味方だったご主人様は体調を悪くし亡くなります。これから後ろ盾を失ったヒースクリフのつらい日々が始まるのでした。

 

第六章 リントン兄妹との出会い

 葬式のためにヒンドリーが寄宿舎から「嵐が丘」に戻ってきますが、彼は結婚しており、妻フランセスを連れ帰ります。

 

ヒンドリーはヒースクリフを家族から召使へ追い落とし、教育を与えず、外で野良仕事を命じます。ヒンドリーは妹のキャサリンに対しても無頓着で、ヒースクリフとキャサリンは日に日に野放図に育っていきます。

 

ある日曜日の晩、ヒースクリフとキャサリンはヒンドリーに家から閉め出されてしまいます。二人は「鶫の辻」に向いますが、そこにはリントン夫妻と息子のエドガー、娘のイザベラが暮らしていました。

 

二人は窓から家の中を覗き込みますが、不審者と間違われ下男につかまってしまいます。キャサリンは犬に噛まれ怪我をしたため、リントン家に留まります。一方粗野なヒースクリフはリントン家でも無下に扱われ、すぐに追い返されてしまいます。ヒースクリフはどこでも歓迎されないのです。

 

第七章 ヒースクリスの悲しいクリスマス

 キャサリンはクリスマスまで5週間リントン家に滞在します。その間しっかりしつけ直され、見た目は立派な令嬢として嵐が丘に戻ってきました。ヒースクリフは気後れしてキャサリンによそよそしい態度をとります。

 

翌日リントン兄妹がクリスマスを一緒に過ごすため嵐が丘にやってきます。ただしリントンの両親はヒースクリフを子供たちに近づけないようにと、予め言い置いていたのです。みんなヒースクリフには意地悪ですね。かわいそう・・・。

 

家政婦のネリーも彼を不憫に思い、クリスマス向けにきちんとした服装を着せ髪をとかしてあげます。彼は気分を良くし居間に入ろうとしますが、ヒンドリーの意地悪な言葉が・・。

 こいつを部屋に入れないようにしろ  ーー 食事が終わるまで屋根裏部屋にあげとけ。

それを聞いたネリーはみんなと同じようにヒースクリフにもご馳走をふるまってほしいと訴えますが、ヒンドリーはこう続けます。

ふるまうのは、平手打ちがいいところだ。もし明るいうちに降りてきたらな。

 

早くいけ、このルンペンめ!伊達男気どりか?よし、いいだろう。そのやんごとなき巻き毛をつかんで、もうちょっと伸びないか見てやろう!

ヒンドリー、本当に最低な男です(怒)

 

更に追い打ちをかけるように、お客様のエドガー・リントンがヒースクリフの長い髪を見て余計な一言「まるで仔馬のたてがみ」。頭にきたヒースクリフは、熱いアップルソースをエドガーにぶちまけてしまいます。

 

ヒースクリフはヒンドリーから折檻を受けるはめとなり、屋根裏部屋に閉じ込められてしまいます。

 

その夜ヒースクリフはネリーの助けで部屋から出ることがでますが、ぼんやりとしてるヒースクリフにネリーは何を考えているのか尋ねます。

ヒンドリーにどうやって仕返しをするか、考えてるんだ。どんなに待ってもかまいやしない。最後の最後に仕返しできれば。クソ、そのときまであの野郎、死ぬなよ!

  

このころからすでにヒースクリフの心には復讐の気持ちが芽生え始めていたのでした。人の恨みは買うものではありません。

 

 第八章 女を見る目がなかったエドガー・リントン 

 ヒンドリーに子供が生まれ、ヘアトンと名付けらます。そう。最初ロックウッドが嵐が丘で見た、あの品格のない青年です。しかしヘアトンを生んだ妻のフランセスはまもなく亡くなります。これがもとでヒンドリーは自暴自棄となり、すさんだ生活をおくるようになるのです。

 

ほとんどの召使は去り、誰もこの家に寄り付かなくなります。ところがエドガー・リントンだけは別でした。彼は傲慢できかん気娘のキャサリンに心を奪われていたのです。 女を見る目がない男です・・。

 

ある日の午後、ヒンドリーが留守なのをいいことに、キャサリンはエドガーを嵐が丘に招きます。

 

ところがエドガーが訪れると、掃除をして部屋から出ようとしないネリーとキャサリンは口論になります。幼いヘアトンが泣き出すと、キャサリンは子供の両肩をつかんで揺さぶる始末・・・。それを見たエドガーは子供を助けようとしますが、誤ってキャサリンの手がエドガーの頬を思いっきりひっぱたいてしまいます。

 

キャサリン嬢のご乱心を目にしたエドガーはドン引きです。「ここには二度と来ない」と帰りかけますが、キャサリンが泣いて引き止めた甲斐あり、エドガーは嵐が丘に留まりまります。それを見ていたネリーはあきれ顔。思わず「この人は救いがたいわ」と心の中でつぶやきます。ナイスな突っ込み!

 

結局雨降って地固まるのごとく、二人は相思相愛の関係となるのでした・・・。

 

第九章 おバカ娘キャサリンの大チョンボ

 その晩キャサリンはネリーに、エドガーからの結婚の申し出があり、受け入れたと告げます。エドガーを愛している理由は「ハンサムで、一緒にいて楽しいし、若くて、明るくて、お金持ち、あんな旦那様をもったら鼻が高いから」・・・。ネリーも呆れてしまいます。

 

更にこんな言葉を口にしてしまいます。

でも、いまヒースクリフと結婚したら、わたしは落ちぶれることになるでしょ。だから、あの子には。どんなに愛しているか打ち明けずにおくの。どうして愛しているかというとね、ネリー、あの子がわたし以上にわたしだからよ。人間の魂がなにで出来ていようと、ヒースクリフとわたしの魂はおなじもの。リントンの魂とは、稲妻が月明りと違うぐらい、炎が氷とちがうぐらい。かけ離れているの

キャサリンにとって二人への愛は全く別の理屈で成り立っており、それゆえに併存できるとでも思っているようです。なんて身勝手な女だ! 

 

ところがこの会話をヒースクリフが聞いていたのです。彼は「ヒースクリフと結婚したら落ちぶれることになる」と言ったところで聞いていられなくなり、部屋を後にしたのです。

 

彼はその日を最後に嵐が丘から姿を消します。

 

ヒースクリフが行方不明となり、キャサリンは精神錯乱に陥りますが、何とか病を乗り切ります。そして3年後にエドガー・リントンと結婚し、家政婦ネリーと共に鶫の辻で暮らすようになるのです。

 

 

その後しばらくはキャサリンとエドガーは幸せな結婚生活を続けることになるのですが、そこにあの男が戻ってきます。そして二つの家族は思わぬ道に進むことになるのです・・・。

 

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嵐が丘 (新潮文庫)

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