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親の因果が子に報う 「嵐が丘」のあらすじを解説3

エミリーブロンテ「嵐が丘」のあらすじ解説、三回目です。

今までの話はこちらから。

 

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ブロンテ三姉妹 左からアン、エミリー、シャーロット

 あらすじをネタバレ解説

 

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第十八章 主役は子供たちにバトンタッチ

キャサリンの死から月日がたち、娘のキャシーは13歳になりました。父親エドガーに大切に育てられ、文字通りの箱入り娘。彼女にとって嵐が丘やヒースクリフは、存在しないも同然です。

 

一方ヒースクリフから逃げ出した妻イザベラは病気となり、女手一つで育てた息子リントンの養育を兄のエドガーに頼みます。(この息子がとんでもないやつなのですが・・)

 

エドガーはこの甥を引き取るため鶫の辻を後にしますが、その間に好奇心の強いキャサリンは家を飛び出し、嵐が丘で偶然ヘアトンと出会います。

 

ヘアトンはヒースクリフから教育を受けさせてもらえず、読み書きもできない粗野な人間として育てられていました。キャサリンはこんな人物が自分のいとこだと知り、ショックを受けます。

 

第十九章 リントンが鶫の辻にやってくる! キャシーは大喜びするが・・

イザベラが無くなり、エドガーは甥のリントンを引き取ります。リントンはひ弱で、性格も気難しい陰気な少年でした。それでもキャサリンはいとこの到着を喜びます。

 

ところがその夜、嵐が丘の下男ジョウゼフがやってきます。ヒースクリフがリントンのうわさを聞きつけ、自分の息子を取り戻しにきたのです。

 

第二十章 鶫の辻に来て早々、嵐が丘に引き渡されるリントン

しぶしぶエドガーは翌朝リントンを嵐が丘に連れていくよう。ネリーに言いつけます。

 

嵐が丘ではヒースクリフがリントンの到着を待っていました。彼は自分の息子が虚弱で女々しい性格をしているのを見て落胆します。

 

リントンはヒースクリフに怯え、ここにはいたくない!と泣きわめくのでした。

  

第二十一章 キャシーとヒースクリフの出会い

 それから月日がたち、キャシーは16歳になります。誕生日、彼女は赤ライチョウの巣を見に行くと言って遠出をしますが、そこは嵐が丘の土地で、ヒースクリフに見つかってしまいます。

 

彼はキャシーを屋敷に招ねき、息子のリントンと再会させます。実はヒースクリフはリントンとキャシーを結婚させ、鶫の辻の財産を乗っ取ろうと企んでいたのです。(キャシーには相続権がありませんでした)

 

キャシーとリントンは仲良くなりますが、同じいとこのヘアトンは教養がなく、文字を読むことができないため二人からバカにされ面白くありません。

 

エドガーはキャシーが嵐が丘に行ったことを知り、ヒースクリフがいかに極悪非道な男であるかを説きます。

 

嵐が丘への再訪を諦めたかのように見えたキャシーでしたが、実はとリントンと内緒で恋文のやりとりを始めます。それも結局はネリーに見つかり手紙も禁止されてしまうのでした。

 

 

 

第二十二章 ヒースクリフの罠に簡単にはまるキャシー

しばらくしてキャシーはヒースクリフと偶然再会します。

 

彼はキャシーが手紙をよこさなくなったため、リントンは日に日に弱っていると彼女を責めます。そして彼を救えるのはキャシーしかいないと焚きつけるのでした。

 

ネリーの忠告にも関わらず、翌朝キャシーはネリーを連れて、再び嵐が丘に向かいます。飛んで火にいる夏の虫とはこのことですね・・・。

 

第二十三章 キャシーのやさしさにつけこむわがまま小僧リントン

キャシーが嵐が丘を訪れるとリントンは喜びますが、父親を巡り二人は口論となります。咳き込み苦しむ軟弱小僧のリントン。キャシーは自分が彼を苦しめたと思い心配します。リントンは彼女のやさしさに付けこみ、わがままの言い放題です。

 

そんな二人を見て、ネリーはリントンとの再会を禁じようとしますが、不覚にも病気で3週間寝込み、その間監視不行き届きに・・・。ネリーおばさん、肝心な時にやらかしてくれます。

 

第二十四章 キャシーは嵐が丘へ

ネリーはキャシーが外出から戻るところ見つけ詰問します。

 

彼女は毎日のように嵐が丘を訪れリントンと会っていました。

 

わがままで意地の悪いリントンは自分の病弱さを訴え、キャシーの同情心を買い、毎日会いに来てほしいと懇願していたのです。

 

一方ヘアトンもキャシーの気持ちを引こうと、覚えた文字を読んでみせますが、逆にバカにされてしまいます。

 

 キャシーはこの嵐が丘の訪問を父親には内緒にしてほしいとネリーに懇願します。ところがネリーは翌朝すべてをエドガーに話してしまうのでした。なんて素敵な家政婦!

 

エドガーはキャシーに二度と嵐が丘に行かないよう言いつけます。

 

第二十五章 エドガーは自分の死期を悟り、娘の行く末を心配する

 エドガーは自分の命が行く末永くないと悟り、後に残されるキャシーを心配します。

 

彼はリントンが娘の夫としてふさわしいか確かめようと、リントンに会おうと手紙をしたためます。ところがリントンからの手紙にはヒースクリフの言いつけで鶫の辻には行けないこと、そしてキャシーと会わせてほしいとの願いが記されていました。

 

エドガーはしぶしぶ鶫の辻の近くで散歩をするくらいなら良いだろうと、二人の再会を許可してしまいます。

  

第二十六章 ヒースクリフの影に怯えるリントン

キャシーネリーを連れてリントンと再会しますが、彼の顔は真っ青でぶるぶる震え、とても散歩ができる様子ではありません。ところが彼は具合は悪くないと言い張るのです。

 伯父さん(エドガー)には、ボクはそこそこ元気だと伝えてほしいんだ。いいね?(新潮文庫 鴻巣友季子訳 以下の引用は同様)

 

リントンはヒースクリフに脅され、あたかも健康で夫としてふさわしいとエドガーに思わせるよう、無理にデートを強要されていたのです。

 

 

第二十七章 ついにヒースクリフの本性が露わに。これは逮捕のレベルだ! 

 エドガーの病状が悪化し危篤状態となる中、キャシーとネリーは再びリントンに会いに行きます。

 

リントンはひどく怯えた様子でした。そこにヒースクリフが現れ、半ば強引にキャシーとネリーを嵐が丘の屋敷で監禁してしまいます。とうとう本性を現しました!もうこれは犯罪です。

 

ヒースクリフは、リントンと結婚しなければ、ここから出さないと迫ります。

 

彼女は危篤の父親に会うために、結婚を承諾してしまうのでした。えぇ~っ?!

 

第二十八章 キャシーはからくも脱出し、父親エドガーの最後を看取る

ネリーは5日後にようやく解放されますが、キャシーは今だ監禁されたまま。リントンはヒースクリフの怒りが自分に及ばないとわかると、飴玉をしゃぶってキャシーのことなどお構いなし。あんなにやさしくしてもらったのに、とんでもないガキです。

 

ネリーはいったん鶫の辻に戻ると、一族郎党を引き連れキャシーを奪回しようとしますが、その夜、キャシーは一人で鶫の辻に戻ります。リントンが彼女を逃がしてあげたのです。実は優しい面もあるようです。

 

エドガーはキャシーに見守られながら、静かな最後を遂げます。

 

 第二十九章 愛する人の墓を暴くヒースクリフ。正真正銘の変態だ!

エドガーの葬儀が終わるとヒースクリフがキャシーを連れ戻しに、鶫の辻へやってきます。

 

彼はネリーに、昨夜キャシーの母親キャサリンの墓を暴いて遺体を見てきたと告げます。ヒースクリフは自分が死んだ後、彼女の隣に葬られ、土の中で彼女と一体となることを望んでいるのです。この変態野郎!

 

ヒースクリフはキャサリンが死んで18年間、ずっと彼女の亡霊取りつかれ、苦しみ続けていました。

 

けど、もう彼女に会ったから、心が落ち着いたよーーー少しばかり。変わった殺し方じゃないか。十八年ものあいだ、こっちは希望という亡霊に騙されつづけて、一寸刻み、いや、髪の毛の何分の一かずつ妙な具合に死んでいくんだぜ! 

 

 キャシーとリントンを鶫の辻で生活させたいというネリーの願いも聞き入れられず、ヒースクリフはキャシーを嵐が丘に連れ去ります。

 

 第三十章  リントンは死に、キャシーは嵐が丘で孤独な生活を送る

ある日ネリーは嵐が丘で働く家政婦ズィラから、キャシーの様子を聞き出します。

 

ズィラが言うには、リントンはすでに亡くなっていました。キャシーは誰とも打ち解けず、ヘアトンの好意にも悪態をつく始末。ズィラからもよく思われていない様子です。キャシーは孤独でみじめな生活をおくっていたのです。

 

こうして、ネリーおばさんの、なが~い昔話は終わります。聞いているロックウッドも暗澹たる気持ちです。

 

第三十一章 ロックウッド 鶫の辻を去るため嵐が丘にご挨拶

 ロックウッドは鶫の辻から引っ越すことを思いたち、再び嵐が丘に向かいます。

 

ロックウッドはキャシーとヘアトンと再会しますが、二人の関係は相変わらずギクシャクしたものでした。

 

キャシーはヘアトンが読めもしない本を隠し持っていることをバカにします。怒ったヘアトンはキャシーを平手打ちし、本を暖炉に投げ捨ててしまうのでした。

 

ヘアトンはキャシーに認めてもらいたいという一心で、本を読むという向上心が芽生えていたのですが、逆効果となったようです。

 

そこにヒースクリフが現れ、ロックウッドは鶫の辻を去ることを告げます。

 

第三十ニ章 様変わりした嵐が丘 再びネリーがことの顛末を語る

ロンドンに暮らすようになったロックウッドは、北イングランドに住む友人から狩りの誘いを受け、久しぶりに鶫の辻へ立ち寄ることになります。ところがネリーはもうそこには住んでいませんでした。彼女は嵐が丘に移り住んでいたのです。

 

ロックウッドは嵐が丘を訪れますが、屋敷は以前とは様子が様変わりしていました。ヒースクリフは3か月前に死んだというのです。そして険悪な関係だったキャシーとヘアトンは、今は仲睦まじく恋人のように暮らしています。

 

ロックウッドが去った後の顛末を、再びネリーが語りだします。

 

教育を受けさせてもらえず本を読むことができないヘアトンでしたが、キャシーに認められたいとの思いもあり、強い向上心はありました。そんなヘアトンを最初はばかにしていたキャシーでしたが、彼に読み方を教えるようになったのです。

 

動物のようなヘアトンの生活に「本」という理性の光が差し込み、二人の関係は急激に親密なものへと変わっていったのです。

  

第三十三章 復讐の後にヒースクリフの心に去来したもの

一方、ヒースクリフにも変化が現れます。

 

彼はキャサリンによく似たヘアトンとキャシーを見ているのがつらくなり、二人を破滅に導こうという邪悪な意欲を失っていきます。

 

 彼はずっとキャサリンの面影に病的に取りつかれていました。

俺はまさしくあいつの姿に囲まれているようなものさ!<中略>この世は丸ごと、あいつが生きていたことを、俺がそれを失ったことを記す、膨大なメモみたいなものなんだ

 

ヒースクリフは日常の生活や食べることにも興味を失い、死をほのめかすようになります。

 

第三十四章 ヒースクリフの最後

 ヒースクリフはとうとう一切食事をとらなくなります。しかし彼の表情は明るい笑みを浮かべているのでした。彼は「自分の天国」を見つけたというのです。

 

大雨が降った翌朝、ネリーはヒースクリフが部屋で死んでいるの見つけます。絶食のため死んだのか、病気のため食事がとれなかったのか、本当の死因は分かりません。

  

その後、ヒースクリフとキャサリンの幽霊が村をさまよう姿を人々が目撃するようになります。下男のジョウゼフも雨の夜にはヒースクリフの寝室の窓に二人の顔が見えるというのです。こわっ! 

 

 ネリーの話が終わると、ロックウッドはキャシーとヘアトンと会うのを避け、こっそりと屋敷を出ます。墓に向かったロックウッドは、そこにはキャサリン、エドガー、そしてヒースクリフの墓が並んでいるのを見ます。そしてこう思うのでした。

 

こんな静かな大地に休らう人々が静かに眠れぬわけがあるだろうか。

 

 

 感想 ヒースクリフとは何者だったのか?

最終章でネリーはヒースクリフについてこう思います。

そもそもあの子はどこからきたんだろう、あの色の黒い子供は?善い人に大切にされながら、それが身の毒になったけれど

 

 孤児だったヒースクリフはリヴァプールで「ご主人様」のアーンショウ氏に拾われます。リヴァプールという町は今でこそビートルズやサッカーで有名ですが、かつては奴隷貿易で栄えていた町なんですね。アフリカから連れてきた奴隷を北アメリカに売り飛ばして莫大な富を得ていた訳です。国際奴隷博物館なんかもあります。

 

ヒースクリフが嵐が丘に連れられてきた当初、英語ができず意味不明な言葉をしゃべります。小説の中ではいっさいふれられていませんが、彼はアフリカ系か、その血を引いていたのかもしれません。2011年の映画「Wuthering Heights」はリースクリフをアフリカ系の役者が演じてますね。

 

嵐が丘のようなキリスト教の道徳が支配する田舎では、そんな彼の存在自体が全くの異端だったはずです。

 

ジョウゼフという嵐が丘で働く下男の爺さんがでてきます。彼は自称敬虔なキリスト教徒ですが、その解釈は独りよがりで、教養のない粗野な男です。長いこと嵐が丘に住み込みで暮らす彼が、古ぼけたこの村の価値観を象徴しているとも考えられます。

 

そんな嵐が丘にヒースクリフという異端が入り込むことになるのです。

 

ヒンドリーの彼に対するひどい仕打ちは、父親の愛情を奪ったことに加え、こうした異なるものへの憎悪や恐怖があったのかもしれません。世界が異なる価値観で分断されようとしている今日の社会でも普遍的テーマだと思いませんか?

 

 

 

以前当ブログでカミュの「ペスト」を紹介しました。

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小説「嵐が丘」にとってのペストはヒースクリフと言っても過言ではないでしょう。彼は嵐が丘と鶫の辻という二つの小さな世界に病原菌のように巣くっていきます。

 

しかしカミュの小説と異なるのは「不条理」を描いている訳ではないということです。彼の復讐には理由があります。

 

根底にあるのは少年時代にヒンドリーから受けた虐待です。

 

ヒースクリフのキャサリンに対する偏執狂的な愛も、子供時代の虐待がもとになっています。寄る辺なき少年にとって頼れる存在はキャサリンだけでした。そんな少女にいだく感情は男女の愛というよりも、同志の絆のようなものだったはずです。

 

そんな二人はお互いが未分化のまま成長していきます。エドガーと結婚するためにはヒースクリフと別れて暮らさなければならにと説くネリーに対し、キャサリンはこう反論します。

ネリー、わたしはヒースクリフと一つなのよ ー あの子はどんな時でも、いつまでも、わたしの心のなかにいる ー そんなに楽しいものではないわよ。ときには自分が自分でないのといっしょでね ー だけど、まるで自分自身みたいなの。だから私達が別れるなんて話は二度としないで

 

一方、エドガーに対する愛は、普通の男女の愛と変わりません。彼女にとってヒースクリフとエドガーへの愛は別ものであり、両立しうるものでした。

 

もちろんヒースクリフにとってそんな彼女の理屈は理解できるものではありません。まあ理解しろというのが無理がありますけど・・。彼の矛先は彼女を奪ったエドガーに向かいます。

 

ところが、ヒースクリフの復讐は彼らの子供たちの代にまで及びます。キャシー、ヘアトン、リントンにとってヒースクリフは不条理な存在でしかありません。彼の圧倒的な暴力の前に子供たちは支配されるしかないのです。

 

目的を遂げたヒースクリフは最後に「自分の天国」を見つけ明るい表情を見せるようになります。それと同時に子供たちへ復讐の意味も失っていきます。

 

異端者であるヒースクリフにとって天国とはキリスト教徒のそれではなかったのでしょう。彼にとっての天国とはキャサリンとの再会を約束する地に他ならず、そこに行くためには、もう食事をしてこの世に留まる理由はありません。彼が絶食して息絶えるとこによって、ようやくキャサリンとの再会できたのです。

 

彼がいなくなった後に嵐が丘に平和が訪れ、読者はようやくほっと一安心して本を閉じることができるのです。

 

この小説には読者が共感できるような好人物はほとんどでてきません。すべての人物が心に邪悪さを抱え、小説全体がインモラルな印象を醸し出しています。それでもネリーの語り口はユーモアに満ち、読者を一気に物語の世界に引き込んでしまいます。

 

今回読んだのは新潮文庫の鴻巣友季子訳ですが、登場人物が口語で語りかけてくるので、非常に読みやすく一気に読むことができました。

 

エミリー・ブロンテの「嵐が丘」。恋愛小説と復讐劇とゴシックホラーの要素を全て持ち、読み始めたら止まりませんよ! 

 

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感想(6件)

ヒースクリフの復讐  エミリー・ブロンテ「嵐が丘」のあらすじを解説2

 

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作者エミリー・ブロンテ この絵、怖い・・・

エミリー・ブロンテの小説「嵐が丘」の続きです。

前回までの話はこちら!

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あらすじに入る前に作者のエミリー・ブロンテについて簡単にご紹介。エミリーが残した長編小説は、この「嵐が丘」のみ。というのも彼女は30歳の若さで亡くなっているんです。残念!もっとたくさん作品を読んでみたかった。

 

彼女にはこうした小説を書くだけの個人的な経験や資料はありませんでした。現代と違ってワイドショーや週刊誌があるわけではありませんから。ほとんど自分の想像力だけを頼りに、この犯罪的な世界感を作り上げていったんですね。ものすごい想像力!

 

作品が発表されたのは1847年。「エリス・ベル」というペンネームを使って出版されました。当時は女性作家に対する評価が低かったため、男とも女ともとれる名前を使ったのです。

 

ところが出版当時の評価はさんざんなものでした。語り部が途中で変わったり、伝聞の中にさらに伝聞が入る複雑な構成が、当時の人には受け入れられなかったのです。

 

「嵐が丘」が評価されるようになったのはエミリーの死後のことです。サマセット・モームは1954年に書いたエッセイ「世界の十大小説」の一つに「嵐が丘」をピックアップしていますし、エドマンド・ブランデンが英文学の三大悲劇と評しています。(ちなみに他の二つはシェイクスピアの「リア王」とメルヴィルの「白鯨」)。

 

(「リア王」のあらすじはこちらをご覧ください)

昔のイギリスにも存在した沢尻エリカ シェイクスピア リア王 - 世界の小説 名作探訪

 

今までに映画・ドラマ化も数多くされています。有名なのは1939年にウイリアム・ワイラーが監督し、ローレンス・オリヴィエがヒースクリフを演じた映画ですかね。内容はずいぶん小説とは違いますが・・・。

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 そういえば80年代にフジテレビで渡辺裕之と田中美佐子主演の「愛の嵐」ってあったなぁ。あれも「嵐が丘」をもとにしたドラマでした。蛇足ながらこの時間帯は「愛 無情」というドラマもあって、こちらはヴィクトル・ユーゴーの「レ・ミゼラブル(ああ無情)」のリメーク。両方とも夢中になって見た記憶があります。

 

エミリー・ブロンテは姉妹もすごい小説家なのです。お姉さんのシャーロット・ブロンテは「ジェーン・エア」を1847年に出版し、こちらは好評を博しました。妹のアン・ブロンテは1848年に「ワイルドフェル・ホールの住人」を出版しています。「ブロンテ姉妹」という映画もあるんですよ。エミリーをイザベル・アジャーニが演じています。 

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それでは小説「嵐が丘」のあらすじを、前回に引き続き見ていきましょう。

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「嵐が丘」のあらすじを解説

第十章 お金持ちになって帰ってきたヒースクリフ

鶫の辻でキャサリンとエドガーの穏やかな結婚生活が三年続きますが、そんな日常をぶち破るかのように、あのヒースクリフが戻ってきます。彼はどういうわけか大金を手にし、かつての自堕落ぶりはみじんも感じさせない紳士となっていました。

 

キャサリンは久しぶりの再会に大喜びしますが、その様子を見たエドガーは面白くありません。更に彼を困惑させたのは妹イザベラが、こともあろうにヒースクリフに恋心を抱くようになってしまったのです。リントン家のエドガー、イザベル兄妹は二人そろって異性を見る目がありませんね・・・。

 

キャサリンはイザベルに、ヒースクリフがいかに粗野な男で彼女にふさわしくないかを説きますが、その結果二人は口論になる始末。

 

一方ヒースクリフはイザベラに関心がないと、最初は冷たくあしらうのですが・・・。

 

第十一章 ヒースクリフがイザベルをたぶらかす 彼の本当の狙いは? 

 ヒースクリフはイザベラに言い寄り、たぶらかそうとします。 彼は自分を捨てエドガーとの結婚を選んだキャサリンに復讐するため義妹のイザベラに近づいたのでした。

 

ヒースクリフはキャサリンにこう告げ、口論となります。

お前は俺にひどいことをしてきた。ひどい仕打ちをな!それは俺も重々承知していることを肝に銘じておいてもらいたい。(中略)俺が仕返しもせず引き下がっていると思うなら、その逆だってことを思い知らせてやる!新潮文庫 鴻巣友希子訳 以下引用はすべて同じ)

 

家政婦のネリーは二人の口論を鎮めるため、エドガーにことの次第を告げに行きます。 ところがキャサリンはエドガーに話を立ち聞きされたと勘違いし、今度はエドガーと口論になってしまいます。ヒースクリフと喧嘩したり、エドガーと喧嘩したり忙しいご令嬢です。

 

腹を立てたエドガーはキャサリンに今後ヒースクリフと会うのをやめるか、自分と別れるか二者択一を迫り、ヒースクリフには金輪際家に出入りすることを禁じてしまいます。

 

それがもとでキャサリンは烈火のごとく怒り狂い、寝室に閉じこもってしまうのでした。

 

第十二章 イザベラはヒースクリフと駆け落ち

部屋に閉じこもったキャサリンは三日間食事もとらず、次第に精神も病んでいきます。ネリーは医者のケリーを呼びに行きますが、彼からよからぬ噂を聞きます。ヒースクリフがイザベラに駆け落ちをしようと口説いていたというのです。

 

翌日その噂が本当だったことがわかります。イザベラは昨夜鶫の辻を出て、ヒースクリフと共に行方をくらませてしまったのです。

 

第十三章 イザベラの後悔 ヒースクリフの本性にようやく気付くが後の祭り

イザベラが駆け落ちしてから2か月がたちましたが、依然として二人の消息は不明でした。その間キャサリンは病気を克服し、うれしいことに後継ぎを身ごもっていたことがわかります。

 

そんな時、イザベラからネリーに手紙が届きます。そこには彼女の後悔の気持ちが綴られていました。イザベラはヒースクリフと共に嵐が丘の家で暮らしていましたが、彼は全く彼女を愛しておらず、最初から騙すつもりでいたことに気づいたのです。

心のそこからあの人が憎くて、みじめでならないわ。本当に私がばかだった!けど、このことはひと言も鶫の辻には漏らさないようにね。毎日、あなたが来るのをいまかいまかと待っています。ーーーどうか期待を裏切らないで!

 

第十四章 家政婦ネリーおばさん、イザベルに会うため嵐が丘を訪れるも、ヒースクリフと余計な約束をしてしまう

 ネリーは嵐が丘を訪れますが、そこで見たのは自堕落な空気に毒された哀れなイザベルの姿でした。彼女は精神的にヒースクリフから虐待を受けていたのです。

 

ヒースクリフはネリーを見つけるとキャサリンに会わせるよう、しつこく迫ります。ネリーは断り続けますが、とうとう根負けしヒースクリフとキャサリンを引き合わせることを約束させられてしまいます。

 

ネリーのやることは全て裏目にでます・・。

 

 第十五章 ヒースクリフとキャサリンの悲しい再会

 

それから4日後の日曜日、エドガーたちが教会に出かけるため留守にした隙に、ヒースクリフがキャサリンの部屋に現れます。彼はキャサリンの変わり果てた姿を見て、もはや全快の見込みがなく、死を待つしかない運命であると悟ります。

ああ、キャシー!俺の命!こんなこと、どうして耐えられるだろう!

 

キャサリンは彼女らしい意地悪な言葉で返します。

あなたがどんなつらい目にあおうと知ったことじゃない。あなたの苦しみなんてどうでもいいのよ。<中略>いまから二十年後にはこんな風に云うんでしょうね、”あれがキャサリン・アーンショウの墓だ。遠いむかしには彼女を愛し、亡くなったときは涙に暮れもした。だが、もう過去のことだ。あれからたくさんの女を愛してきた。いまでは子どもたちのほうが、彼女よりも愛おしい。”

  

二人の逢瀬が続く中、教会のミサが終わりエドガーが帰宅します。ヒースクリフは立ち去ろうとしますが、キャサリンは彼を離しません。

ねえ、お願いよ、行かないで。これっきりになるというのに!エドガーだってわたしたちに手出しはしないわ。ヒースクリフ、わたし死んでやる、死んでやるから!

二人は抱きあいます。

 

ネリーはエドガーに見つかるのではないかと気が気でなりません。二人を引き離そうとわめき散らしますが、その騒ぎを聞きつけエドガーがやってきます。(ネリー!また余計なことを・・・。)

 

すでにキャサリンはヒースクリフの腕の中で気を失っています。その光景を見たエドガーはヒースクリフに飛びかかりますが、ヒースクリフはこう言ってかわします。

よく見ろ。おまえが鬼ではなく人間なら、まず彼女を看病するんだな ーーー 俺に文句を云うのはそれからだ!

 

エドガーとネリーはキャサリンをなんとか正気づかせますが、誰の顔もわからないという有様です。

 

疫病神のヒースクリフはネリーに促され、ようやく家を出て行きました。

 

第十六章 キャサリンの死と二代目キャサリンの誕生 

 その晩キャサリンは子供を産んで亡くなります。その子供は母親と同じ名前キャサリンと名付けられました。彼女がロックウッドが最初に嵐が丘で出会った少女です。(ここでは母親キャサリンと区別するためキャシーと呼びます)

 

翌朝ネリーはヒースクリフに会い、キャサリンの最後の様子を告げます。

 

キャサリンはリントン家の墓ではなく、緑の丘の斜面に埋葬されたのでした。

 

第十七章 イザベラは逃亡先でヒースクリフの子供を出産 嵐が丘の屋敷はヒースクリフの手に渡る!?

葬儀の翌日、悲しみに沈む鶫の辻のリントン家に、イザベラが息を切らして大声で入っきました。彼女は怪我をして血を流していました。ヒースクリフが彼女に暴力をふるったったため、命からがら逃げてきたのです。

 

イザベラはヒースクリフにつかまるのを恐れ、ロンドン方面まで逃げのびますが、そこでヒースクリフの子供を産み、リントンと名付けます。(ヒースクリフが憎むリントン家の名前を息子につけたのが、彼女のせめてもの抵抗だったのでしょう)

 

嵐が丘の家ではキャサリンの兄だったヒンドリーが亡くなります。彼は賭博の金をつくるため自分の土地をかたに入れていました。その抵当権を持っていたヒースクリフはヒンドリーの土地をまるごと手に入れてしまったのです。

 

ヒースクリフは本来この屋敷の主となるはずだったヒンドリーの息子ヘアトンを、召使のようにこき使います。教養なく育てられたヘアトンは自分が不当な扱いを受けていることすら知らず、ヒースクリフの支配のもと、この家でし暮らしていくしかないのです。

 

ヒースクリフの復讐は留まることをしりません。かつて自分を虐待したヒンドリーと、自分を捨てたキャサリンの兄妹が死んでも、復讐の対象は彼らの子供たちに引き継がれていくのです。ヒースクリフめ!陰険でしつこいぞ!

 

 今日はここまでにしておきます。続きはまた。

 

 

 

 

 

 

元祖「家政婦は見た」 エミリー・ブロンテ「嵐が丘」のあらすじを解説1

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ニュースを見ていると毎日のように耳を塞ぎたくなるようなイヤーな事件が起こりますよね。特に家族をめぐる事件は、子供が犠牲になることも多く残虐性も際立っていると思います。虐待や洗脳や、信じられないような事件が今までにも起こってます。家族ゆえに逃れられない、そんな状況が救いのない結末を引き起こしてしまうのでしょう。

 

19世紀のイギリスの小説家エミリー・ブロンテが書いた小説「嵐が丘」はヒースクリフという男の復讐劇です。彼は孤児でしたが、「嵐が丘」の家族に拾われ、そこで虐待を受けて育ちます。彼の救いは同居する少女キャサリンでした。ヒースクリフとキャサリンは共に心惹かれあっていたのです。ところが彼女は別の男に嫁いでしまいます。その理由はかなり軽率なのですが・・・。ヒースクリフは絶望のあまり家を飛び出します。

 

それから3年、ヒースクリフは金持ちとなり「嵐が丘」に戻ってきます。しかし彼の目的はかつて自分を苦しめた一族に対する復讐でした。邪悪なヒースクリフは家族に入り込み、しだいに一族を蝕み精神的に支配していくのですが・・・・といった感じのストーリーです。

 

この小説を面白くしているのは、語りの手の女中ネリーおばさん。物語の大半はこの女中がロックウッドという男に自分が目撃した出来事を語っており、19世紀版の「家政婦は見た」といった感じなのです。

 

それにしてもこのネリーおばさん、なかなかのエンターテナーなんです。暗い過去の物語をすごい記憶力でユーモアたっぷりで語ってくれます。利き手のロックウッドと共に、我々読者もついつい物語に引きもまれてしまうのです。

 

それでは「嵐が丘」について、今回はヒースクリフが家出するまでのあらすじをご説明します。

 

あらすじを詳しく解説

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第一章 ロックウッド氏、大家さんに引っ越しのご挨拶に出かけるが・・・

舞台は19世紀のイギリス。鶫の辻(スラッシュクロス)にある屋敷にロックウッドという名の男が引っ越してきます。彼は大家に挨拶するため「嵐が丘」の屋敷を訪ねますが、大家のヒースクリフは大変不愛想で粗暴な男でした。

 

第二章 ヒースクリフが支配する奇妙な家族

ヒースクリフに興味を持ったロックウッドは再び嵐が丘を再訪します。屋敷には ヒースクリフの他に、生気のない美しい少女と、みすぼらしい青年が一緒に暮らしていました。少女はヒースクリフの死んだ息子の妻で、青年は「ヘアトン・アーンショウ」という名前であることがわかりますが、3人の人間関係はひどくゆがみ、いがみ合って暮らしているようです。

 

やがて雪が激しく降り積もり、ロックウッドは自宅に帰れなくなります。彼はヒースクリフに一晩泊めてほしいと願い出ますが、冷たく断られます。ロックウッドは途方に暮れますが、親切な家政婦ズィラが現れ、内緒で空き部屋をあてがってくれました。これで一安心?

  

第三章 ロックウッド氏、女の子の幽霊にうなされる

ロックウッドが案内された部屋には「キャサリン・アーンショウ蔵書」と書かた本があり、余白には彼女が書いたと思われる日記が記されていました。彼は日記を読みながら、いつのまにか眠ってしまします。ところが窓の外に日記の作者キャサリンの幽霊が現れたのです!彼は恐怖のあまり叫び声を上げ、ヒースクリフに見つかってしまいます。

 

ところが幽霊の話を聞いたヒースクリフは、一人密かにすすり泣くのでした。 

キャシー、さあ、こっちだよ。ああ、お願いだ ー せめてもう一度!ああ、我が心の愛しい人、こんどこそ聞き届けておくれ ー キャサリン、今日こそは!(新潮文庫 鴻巣友希子訳 以下引用はすべて同じ)

 

朝になるとロックウッドはようやく、この気味の悪い家族が住む家から逃れ、自宅に戻ることができたのでした。

 

第四章 家政婦は見た!  ネリーおばさんが二つの家族のなが~い物語を語る

「鶫の辻」の自宅に戻ったロックウッドは家政婦としてここで働いているネリー・ディーンに「嵐が丘」で見た家族について尋ねます。

 

ネリーが言うには、あの美少女の名はキャサリン・リントン。ここ「鶫の辻」のご主人様だったエドガー・リントンの娘だというのです。そして品のない青年ヘアトンは「嵐が丘」で代々続いた由緒正しいアーンショウ家の跡取りだというのです。

 

ネリーはかつて「嵐が丘」と「鶫の辻」の二つの家族で起こった悲劇を語り始めます。

 

 元々ネリーは「嵐が丘」のアーンショウ家で家政婦の娘として育ちました。そこにはご主人様と妻、そして二人の子供、兄ヒンドリーと妹キャサリン(キャサリン・リントンの母親)が暮らしていました。

 

ある日ご主人様はリバプールに出かけますが、町で飢え死にしそうな汚らしい孤児を拾い、嵐が丘に連れ帰ります。

 

孤児はヒースクリフという名を与えられ、ご主人様に溺愛されます。一方実の息子のヒンドリーは、父親の愛情を奪ったヒースクリフに憎しみを募らせていきます。

 

第五章 美しい小悪魔キャサリン嬢

ヒースクリフをいじめるヒンドリーは、ご主人さまに寄宿舎に入れられてしまいます。

 

ご主人様にとって娘のキャサリンも悩みの種でした。キャサリンは我を通すところがあるお転婆娘に育ちます。しかしその美しさといったら、その教区でかなうものはいません。また兄のヒンドリーとは違い、キャサリンはヒースクリフが大好きで、いつも二人で過ごすようになります。

 

しかしヒースクリフの味方だったご主人様は体調を悪くし亡くなります。これから後ろ盾を失ったヒースクリフのつらい日々が始まるのでした。

 

第六章 リントン兄妹との出会い

 葬式のためにヒンドリーが寄宿舎から「嵐が丘」に戻ってきますが、彼は結婚しており、妻フランセスを連れ帰ります。

 

ヒンドリーはヒースクリフを家族から召使へ追い落とし、教育を与えず、外で野良仕事を命じます。ヒンドリーは妹のキャサリンに対しても無頓着で、ヒースクリフとキャサリンは日に日に野放図に育っていきます。

 

ある日曜日の晩、ヒースクリフとキャサリンはヒンドリーに家から閉め出されてしまいます。二人は「鶫の辻」に向いますが、そこにはリントン夫妻と息子のエドガー、娘のイザベラが暮らしていました。

 

二人は窓から家の中を覗き込みますが、不審者と間違われ下男につかまってしまいます。キャサリンは犬に噛まれ怪我をしたため、リントン家に留まります。一方粗野なヒースクリフはリントン家でも無下に扱われ、すぐに追い返されてしまいます。ヒースクリフはどこでも歓迎されないのです。

 

第七章 ヒースクリスの悲しいクリスマス

 キャサリンはクリスマスまで5週間リントン家に滞在します。その間しっかりしつけ直され、見た目は立派な令嬢として嵐が丘に戻ってきました。ヒースクリフは気後れしてキャサリンによそよそしい態度をとります。

 

翌日リントン兄妹がクリスマスを一緒に過ごすため嵐が丘にやってきます。ただしリントンの両親はヒースクリフを子供たちに近づけないようにと、予め言い置いていたのです。みんなヒースクリフには意地悪ですね。かわいそう・・・。

 

家政婦のネリーも彼を不憫に思い、クリスマス向けにきちんとした服装を着せ髪をとかしてあげます。彼は気分を良くし居間に入ろうとしますが、ヒンドリーの意地悪な言葉が・・。

 こいつを部屋に入れないようにしろ  ーー 食事が終わるまで屋根裏部屋にあげとけ。

それを聞いたネリーはみんなと同じようにヒースクリフにもご馳走をふるまってほしいと訴えますが、ヒンドリーはこう続けます。

ふるまうのは、平手打ちがいいところだ。もし明るいうちに降りてきたらな。

 

早くいけ、このルンペンめ!伊達男気どりか?よし、いいだろう。そのやんごとなき巻き毛をつかんで、もうちょっと伸びないか見てやろう!

ヒンドリー、本当に最低な男です(怒)

 

更に追い打ちをかけるように、お客様のエドガー・リントンがヒースクリフの長い髪を見て余計な一言「まるで仔馬のたてがみ」。頭にきたヒースクリフは、熱いアップルソースをエドガーにぶちまけてしまいます。

 

ヒースクリフはヒンドリーから折檻を受けるはめとなり、屋根裏部屋に閉じ込められてしまいます。

 

その夜ヒースクリフはネリーの助けで部屋から出ることがでますが、ぼんやりとしてるヒースクリフにネリーは何を考えているのか尋ねます。

ヒンドリーにどうやって仕返しをするか、考えてるんだ。どんなに待ってもかまいやしない。最後の最後に仕返しできれば。クソ、そのときまであの野郎、死ぬなよ!

  

このころからすでにヒースクリフの心には復讐の気持ちが芽生え始めていたのでした。人の恨みは買うものではありません。

 

 第八章 女を見る目がなかったエドガー・リントン 

 ヒンドリーに子供が生まれ、ヘアトンと名付けらます。そう。最初ロックウッドが嵐が丘で見た、あの品格のない青年です。しかしヘアトンを生んだ妻のフランセスはまもなく亡くなります。これがもとでヒンドリーは自暴自棄となり、すさんだ生活をおくるようになるのです。

 

ほとんどの召使は去り、誰もこの家に寄り付かなくなります。ところがエドガー・リントンだけは別でした。彼は傲慢できかん気娘のキャサリンに心を奪われていたのです。 女を見る目がない男です・・。

 

ある日の午後、ヒンドリーが留守なのをいいことに、キャサリンはエドガーを嵐が丘に招きます。

 

ところがエドガーが訪れると、掃除をして部屋から出ようとしないネリーとキャサリンは口論になります。幼いヘアトンが泣き出すと、キャサリンは子供の両肩をつかんで揺さぶる始末・・・。それを見たエドガーは子供を助けようとしますが、誤ってキャサリンの手がエドガーの頬を思いっきりひっぱたいてしまいます。

 

キャサリン嬢のご乱心を目にしたエドガーはドン引きです。「ここには二度と来ない」と帰りかけますが、キャサリンが泣いて引き止めた甲斐あり、エドガーは嵐が丘に留まりまります。それを見ていたネリーはあきれ顔。思わず「この人は救いがたいわ」と心の中でつぶやきます。ナイスな突っ込み!

 

結局雨降って地固まるのごとく、二人は相思相愛の関係となるのでした・・・。

 

第九章 おバカ娘キャサリンの大チョンボ

 その晩キャサリンはネリーに、エドガーからの結婚の申し出があり、受け入れたと告げます。エドガーを愛している理由は「ハンサムで、一緒にいて楽しいし、若くて、明るくて、お金持ち、あんな旦那様をもったら鼻が高いから」・・・。ネリーも呆れてしまいます。

 

更にこんな言葉を口にしてしまいます。

でも、いまヒースクリフと結婚したら、わたしは落ちぶれることになるでしょ。だから、あの子には。どんなに愛しているか打ち明けずにおくの。どうして愛しているかというとね、ネリー、あの子がわたし以上にわたしだからよ。人間の魂がなにで出来ていようと、ヒースクリフとわたしの魂はおなじもの。リントンの魂とは、稲妻が月明りと違うぐらい、炎が氷とちがうぐらい。かけ離れているの

キャサリンにとって二人への愛は全く別の理屈で成り立っており、それゆえに併存できるとでも思っているようです。なんて身勝手な女だ! 

 

ところがこの会話をヒースクリフが聞いていたのです。彼は「ヒースクリフと結婚したら落ちぶれることになる」と言ったところで聞いていられなくなり、部屋を後にしたのです。

 

彼はその日を最後に嵐が丘から姿を消します。

 

ヒースクリフが行方不明となり、キャサリンは精神錯乱に陥りますが、何とか病を乗り切ります。そして3年後にエドガー・リントンと結婚し、家政婦ネリーと共に鶫の辻で暮らすようになるのです。

 

 

その後しばらくはキャサリンとエドガーは幸せな結婚生活を続けることになるのですが、そこにあの男が戻ってきます。そして二つの家族は思わぬ道に進むことになるのです・・・。

 

話の続きはこちら!

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嵐が丘 (新潮文庫)

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カミュ「ペスト」 不条理な世界との戦い方<2>

 

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カミュの「ペスト」の続きです。

 ペストみたいな上司がやってきた前回の話はこちらをご覧ください。

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  4人の登場人物 

ペストによってオラン市は完全に閉鎖され陸の孤島となります。そこに取り残されたランベール、パヌルー神父、タルー、そしてリウーについて、彼らがどうこの難局に立ち向かったのか見ていきましょう。

 

 1.ランベール  「やっぱ自分が大事」と町からの脱出を試みるも・・・

新聞記者のランベールは、取材のためオラン市に滞在していましたが、ペストで市が閉鎖されたため、町から出ることができなくなります。

 

ランベールはパリにいる恋人に再会しようと、オランからの脱出を図ります。彼は医師リウーを訪ね、ペストにかかっていないとの証明書を書いてもうよう願い出ます。ところがリウーは職務上、特例を認めるわけにはいかないとランベールの依頼を断ります。 

 

ランベールは強く抗議します。

あなたには理解できないんです。あなたの言っているのは、理性の言葉だ。あなたは抽象の世界にいるんです。(宮崎嶺雄訳 以下同)

 

その後ランベールは密輸業者のコタールの助けによって、町からの脱出を試みますが、遅々として進みません。

 

一方リウーとその友人のタルーは保険隊を組織しペストで苦しむ人々を助けようと奔走していました。自分だけ町から脱出しようとするランベールは、こう言って二人を非難します。

 

あなた方は一つの観念のためには死ねるんです。

 

僕はもう観念のために死ぬ連中にはうんざりしているんです。僕はヒロイズムというものを信用しません。

 

僕が心をひかれるのは、自分の愛するもののために生き、かつ死ぬということです。

 

ランベールはスペイン戦争に参加した経験から、観念、理性、抽象といったものが戦争を引き起こし、そうした行為に加担することをヒロイズムとして退けます。リウーやタルーのペストとの闘いも観念から生まれたヒロイズムであり、個人の幸福の追求を否定するものとして非難したのです。

 

 恋人への愛を選びオランの町から脱出を図ろうとするランベールに対しリウーは「君のいうとおりですよ」と理解を示しながらも、これは決してヒロイズムという問題ではなく、誠実さの問題だと説きます。彼にとって誠実さとは自分の職務を果たすということでした。

 

職務を全うしようとするリウーに対し、ランべールは愛を選んだのが間違えだったのかもしれないと一瞬躊躇しますが、続けてこう訴えます。

あなた方は二人とも、なんにも失うところはないんでしょうからね、そういうことのために。いいほうの側にたつのはやさしいことです。

 

ところがその後ランベールは、リウーも妻と離れ離れにの暮らしを余儀なくされているという事実を知り、市から脱出するまではリウー達と共に保険隊で働こうとします。

 

やがてランベールに市から脱出するチャンスが訪れますが、彼は思いとどまり、最後までリウーらと共にペストと戦い続けることになるのでした。

  

2.パヌルー神父 この世で起こることは、全てが神の思し召し?

 パヌルー神父は人々から尊敬を集めるイエズス会士です。彼は教会で説教を行いますが、ペストを神の懲罰とみなし、人々に懺悔することを説いたのでした。

 

皆さん、あなたがたは禍のなかにいます。皆さん、それは当然の報いなのであります。

 

今日、ペストがあなたがたにかかわりをもつようになったとすれば、それはすなわち反省すべき時が来たのであります。心正しき者はそれを恐れることはありえません。しかし邪なる人々は恐れ戦く(おののく)べき理由があるのであります。

 

このようなパヌルー神父の考えに対しリウーは疑問を抱きます。タルーとの会話で、リウーはこう答えています。

 

 パヌルーは書斎の人間です。人の死ぬところを十分見たことがないんです。だから、真理の名において語ったりするんですよ。

 

その後、パヌルー神父は保険隊に加わり、献身的な活動をしますが、子どもが苦しみながら死んでいく様子を見て、リウーと口論になります。

 

 リウーはパヌルー神父の説教を思い出しこう訴えます。

 まったく、あの子だけは、少なくとも罪のないものでした。あなたもそれはご存じのはずです!

 

憤るリウーに対しパヌルー答えます。

まったく憤りたくなるようなことです。しかし、それはつまり、それがわれわれの尺度をこえたことだからです。しかし、おそらくわれわれは、自分たちに理解できないことを愛さねばならないのです。

 

 リウーはこう返します。

そんなことはありません。僕は愛というものをもっと違ったふうに考えています。そうして、子供たちが責めさいなまれるように作られたこんな世界を愛することなどは、死んでも肯んじ(がえんじ)ません

 

パヌルー神父はペストに神の意思を見出そうとするのに対し、リウーは実直に医師としての職務を全うしようと治療に専念します。リウーにとって大切なことは神の意思を解釈することではなく、目の前で苦しんでいる人を助けることなのです。

 

  

パヌルー神父は教会で再び説教を行います。しかし悲惨な子供の死に直面した結果、彼の言葉は1回目の説教とは大きく変わっていました。

 皆さん。その時は来ました。すべてを信じるか、さもなければすべてを否定するかであります。そして、私どものなかで、いったい誰が、すべてを否定することを、あえてなしうるでしょうか?

 

神への愛は困難な愛であります。それは自我の全面的な放棄と、わが身の蔑視を前提としております。しかし、この愛のみが、子供の苦しみと死を消し去ることができるのであり、この愛のみがともかくそれを必要なもの   ー ー理解することが不可能なゆえに、そしてただそれを望む以外にはなしえないがゆえに必要なもの ーー となしうるのであります

 

パヌルー神父は神を全面的に受け入れるか、あるいは否定するかの二者択一を迫ります。彼にとって世界は神の意思によって貫かれているため、たとえ人間には到底理解できないような悲劇であっても、キリスト教徒であれば全面的にそれを受け入れなければならないと説いたのです。

 

説教の直後、パヌルー神父はペストと思われる病に倒れます。ところが彼は医者の診察を拒否します。彼の思想の帰結として、病を神の意思として受け入れ、治療を拒否したのです。その結果パヌルーは命を落とすことになります。

 

3.タルー 人は 神によらずに聖者たりえるか 

タルーはオラン市の町がペストに席巻される数週間前からここに滞在し、町の人々を観察しながら少し風変わりな日記を綴っていました。

 

ペストによって町が閉鎖されると、タルーは医師リウーに志願制の保険隊を組織することを提案します。タルーとリウーはペストに立ち向かおうとする点で、ほとんど同一の考えをもっています。

 

しかし、パヌルー神父の説教をめぐる会話の中で、タルーとリウーの考えに微妙な違いが垣間見られます。

 

神を信じるか?と尋ねるタルーに、リウーは答えます。

 信じていません。しかし、それは一体どういうことか。私は暗闇のなかにいる。そしてそのなかではっきり見きわめようと努めているのです。

 

この先、何が待っているのか、こういうすべてのことのあとで何が起こるのか、僕はしりません。<中略>しかし、最も急を要することは、彼らをなおしてやることです。僕は自分としてできるだけ彼らをも守ってやる、ただそれだけです。

 

 しかし、「何ものに対して守るのか?」とのタルーの問いに、「僕には、全然わからない」と答えます。

 

リウーが神を信じていないにもかかわらず献身的になれるのは、今、ここで死にかけている人間を助けたいという、ごく自然な感情の線上にあるのです。リウーにとって大切なことは信仰でも何かを理解することでもなく、人命を救うという医師としての仕事なのです。

 

 

一方、タルーは「人生についてもうすっかり知っている」と思っています。保険隊を作ってペストという不条理に対峙しようとするタルーに対し、リウーはなにがそうさせるのか?と問います。タルーはこう答えます。

知りませんね。僕の道徳ですかね、あるいは

 

どんな道徳です、つまり?

 

理解することです。

 

何故タルーにとって「理解」することが、不条理との闘いの原動力となりうるのか?

 

タルーはこの街にきてペストに出会う前から、ペストに苦しめられてきたと告白します。

 

 タルーは少年時代、次席検事だった父親が被告人に死刑宣告をするのを見たことから、「社会は死刑宣告という基礎の上に成り立っている」と考えるようになります。彼はこうした殺人(≒ペスト)と戦うために政治活動に参加しますが、そこでも「誰も殺されない世界」を作るために処刑が行われているといった矛盾に直面します。

 

その時僕は、その長い年月の間ーーしかも全精神をあげてまさにペストそのものと闘っていると信じていた間にも、少なくとも自分は、ついにペスト患者でなくなったことはなかったのだ、ということを悟った。

 

タルーは「われわれはペストの中にいるのだ」と気づいたとき、心の平和を失います。そして失ったものを探し求めるため、「すべての人々を理解しよう、誰に対しても不倶戴天の敵にはなるまい」と決意します。

 

 その帰結としてタルーは人を死にいたらしめる一切のものを拒否しようとします。

僕は、直接にしろ間接にしろ、いい理由からにしろ、悪い理由からにしろ、人を死なせたり、死なせることを正当化したりする、いっさいのものを拒否しようと決心したのだ

 

タルーは世界を天災と犠牲者に分けます。そして天災に与(くみ)することを拒否し、犠牲者の側に立つことに、つまり犠牲者に「共感」することによって、心の平和に到達できると説きます。

 

タルーはすべての人々(犠牲者)を理解し共感することによって(=神によらずして)、心の平和を取り戻そうとしているのです。タルーはこう述べます。

 人は神によらずして聖者になりうるか、これが僕の知っている唯一の問題だ。 

タルーにとって保険隊とは、他者を理解し共感することによって(つまり神によらずして)、心の平安に到達し、聖者たらんとする試みだったのかもしれません。 

 

これに対し、リウーは言います。

僕にはどうもヒロイズムや聖者の徳などというものを望む気持ちはないと思う。僕が心を惹かれるのは、人間であるということだ

 

聖者となることを理想とするタルーに対し、リウーは人間の世界からペストに対峙する立場をとります。

 

しかしペストが終息しようとしている直前、タルーはペストに倒れます。タルーはリウーとリウーの母親に見守られながら息絶えます。彼は心の平和に到達することができたのでしようか?

  

 4.リウー  彼が「平凡」の先に見たもの

今までランベール、パヌルー神父、タルーの戦いを紹介してきましたが、彼らとリウーの会話からリウー自身の考え方が垣間見えます。

 

ランベール、パヌルー神父とリウーの違いは明らかです。

 

ランベールが恋人と再会するため町から脱出し、個人の幸福を追求しようとするのに対し、リウーはオランにとどまり医師としての職務を誠実に果たそうと努めます。

 

パヌルーがペストに神の意思を認め、それゆえに治療を拒み死を受け入れたのに対し、 リウーは神を否定し、死に抗います。医者であるリウーにとって重要なのは神ではなく「健康」なのです。

 

一方タルーとリウーの違いは微妙で分かりにくく感じます。この差異を理解するには、官吏グランに対するリウーの共感を見るのが一番でしょう。

 

グランは安月給で働く冴えない役人です。売れる当てのない小説を書き続け、いつか成功したいと夢想することが、彼のささやかな野心なのです。

 

そんな普通の役人グランが保険隊に参加します。彼は登録や統計といった地味でささやかな仕事で貢献しますが、そこには何らヒロイズム的な要素はありません。

 

しかしリウーは、この凡庸な人物に最も共感と敬意を表しているのです。

 

リウーはグランについてこう語っています。

グランというなんらヒーロー的な要素を持たぬ男が、今ではそれらの保険隊の一種の幹事役のようなものを勤めることになったのである

 

グランこそ、それらの衛星隊の原動力となっていたあの平静な美徳の、事実上の代表者であったと見なすのである。

 

一方リウーはタルーの組織した保険隊に対しこのように述べています。

これらの保険隊を実際以上に重要視して考えるつもりはない。なるほど、多くの市民が、今ではその役割を誇張したい誘惑に負けるだろう。しかし、筆者(=リウー)はむしろ、美しい行為に課題の重要さを認めることは、結局、間接の力強い賛辞を悪に捧げることになると、信じたいのである。

 

タルーの尽力により実現されたわれわれの保険隊も、客観性をもった満足の念をもって判断されねばならぬのである。このゆえに、筆者はその意図とヒロイズムとのあまりにも雄弁な歌手になろうとはせず、それ相応の重要さを認めるにすぎないのである。 

 

リウーは「自分はすべてを知っている」と信じ聖者たろうとするタルーに対し「ヒロイズム」を見て取ります。一方自分の仕事に忠実たらんとする普通の人、グランに「ヒロイズム」とは全く真逆なものを見出しながら、逆説的に彼こそがヒーローにふさわしいと最大限の賛辞を送るのです。

 

もし人々が、彼らのいわゆるヒーローなるものの手本と雛形とを目の前にもつことを熱望するというのが事実なら、<中略>筆者はまさに微々として目立たぬこのヒーロー(グランのこと)  -- その身にあるものとしては、わずかばかりの心の善良さと、一見滑稽な理想があるにすぎぬこのヒーローを提供する

 

普通の人々が、日常の感覚の中で、不条理に対しNO!ということ、これこそがリウー、そして作者カミュにとって理想の姿なのでしょう。そこには神も聖者の姿もなく、ただ市井の平凡な人々がいるだけなのです。

 

やがてペストはその猛威を急速に弱め、あっけなく終息を迎えます。そしてオラン市は解放され、人々には日常が戻り、この小説は終わります。

 

オラン市に留まったランベールは結局生き延び、恋人との再会をは果たします。

 

しかしペストと闘い続けたリウーのもとには療養中の妻の死を知らせる手紙が届くのでした。

 

 

 

 以上がカミュ「ペスト」の大まかなストーリーです。hirozonのヘボイ読解力ではタルーの話が今ひとつ咀嚼しきれず、誤った解釈をしているかもしれません。解釈については当ブログは何ら責任を持ちませんので、「なんか違うんじゃねーの?」と疑問を持たれた方はご自分で小説を読んでいただき、正しく解釈していただくようお願いします。

 

で、今hirozonが悩んでいる冒頭の問題に戻りますが、ペストのように突然現れたパワハラ上司・・・。この不条理にどう対処するべきか?

 

「ペスト」が教えてくれた選択肢は以下の3つ!

 

  1. ランベールのように逃げる・・つまり会社をやめる。
  2. パヌルー神父にように神の意思だと思ってあきらめる?
  3. リウーやタルーのように戦う・・訴訟でも起こす?

 

でも小説の最後はペストがあっけなく消滅してくれます。ということは、あいつがいなくなるのを待つという4つ目の選択肢もありか?いつかは異動があるだろうし。

 

サラリーマンも永遠に不条理に苦しむのです・・。

 

ペスト (新潮文庫)

ペスト (新潮文庫)

 

 

カミュ「ペスト」 不条理な世界との戦い方<1>

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 会社、辞めたい・・・・・。

 

hirozonの職場に新しい上司がやってきたのですが、こいつが人格異常者のパワハラ上司だったのです!

 

膨大な量の仕事はすべて部下に丸投げ。延々に続く支離滅裂なお説教。人の意見は一切聞かず、唯我独尊。そのくせ何の決断もない。話が長いわりに不明確なので、何度もやり直しが続き、無駄に時間だけが過ぎていきます。こちらは上司の意図を組んでいるつもりなので、「では具体的にどうしらよいですか?」と聞くと「それはあなたの考えることだろう!!」と逆切れ・・・・。

 

そう!この上司は今まで平穏な日常に突然現れたペストであり、hirozonの生存を脅かす病原菌なのです。サラリーマンの一生は不条理の連続。この窮状をどう克服するべきか?

 

この問いに答えてくれるかどうかはわかりませんが、カミュの小説「ペスト」も不条理に襲われたオランという町を舞台に、さまざまな人物が危機を乗り越えようとします。

 

第二次大戦中にパリを占領したナチスをペストとして隠喩しているというのが定説ですが、ペストはそれに留まらず、あらゆる悪、天災、悲劇を表現しているように感じます。それゆえにこの小説が普遍性を持ち、不朽の名作となった理由があるのでしょう。

 

ではhirozonが己のサラリーマン人生と二重写しにして涙しながら読んだ「ペスト」のあらすじをご紹介します。

 

あらすじ 

悲劇の始まりは一匹のネズミの死体からだった

 

所はアルジェリアのオランという町。ある日の朝、主人公の医師リウーがアパートで一匹の死んだネズミを見つけます。門番のミッシェル老人は「誰かがいたずらでネズミを外から持ってきたのだろう」と気にもかけません。

 

ところが夕方リウーは再び廊下で血を吐きながら死んでいくネズミを見つけます。その様子を見て彼の頭に浮かんだことは、妻の病気のことでした。リウーの妻は病気を患っており、明日リウーと別れて療養所に旅立つことになっていたのです。

 

妻が療養のため旅立った翌日、リウーは門番のミッシェル老人が途方に暮れているのを見つけます。ネズミの死体が10匹もアパートに散乱していたのです。しだいに町にはネズミの死体があふれ始め、市民は次第に不安になりかけていました。その後ミッシェル老人は高熱を出し、リウーの介護もむなしく死んでしまいます。

 

しかしミッシェル老人の死は悲劇の最初の兆候にすぎませんでした。その後死者は増え続けていったのです。死者の症状からリウーと友人の医師カステルはこの熱病がペストであると確信するに至ります。

 

リウーは県庁に保健委員会を招集してもらい、この事態に対処しようとします。ところが会議が開かれると、有力者である医師会会長のリシャールは町が混乱することを恐れ熱病をペストと認めることに躊躇し、分析の結果を待つべきだと主張します。

 

それに対しリウーはこう述べます。

諸君がこれをペストと呼ぶか、あるいは知恵熱と呼ぶかは、たいして重要なことではありません。重要なことは、ただ、それによって市民の半数を死滅さられることを防ぎとめることです

 

これに対しリシャールはペストであるかどうかが判明しなければ、法的な措置をとることができないと反論します。

この病を終息させるためには、もしそれが自然に終息しないとしたら、はっきり法律によって規定された重大な予防措置を適用しなければならぬ。そうするためには、それがペストであることを公に確認する必要がある

  

知事もペストかどうかがはっきりしなければ、行政上の処置をとることができないと述べます。

 私としては、それがペストという流行病であることを、皆さんが公に認めてくださることが重要です。

 

それに対しリウーは言います。

われわれがそれを認めなかったとしても、それは依然として市民を死滅させる危険をもっています。 

 

ペストがどうかに拘るリシャールと知事に対し、言葉の定義ではなく、これ以上死者を増やさないための対策を講じるべきだと主張するリウー。

 

医者たちの話し合いの結果、リシャールの玉虫色の言葉で落ちつくことになります。

つまりわれわれは、この病があたかもペストであるかのごとくふるまうという責任をおわねばならぬわけです。

 

 ところが県庁の対応はリウーの考えていたものとは異なり、控えめなものに終始します。世論を不安にさせまいという事なかれ主義の心理が働いていたのです。

 

一方死者の数は日に日に増加していきました。リウーは急増する患者を救うため奔走しますが、ついに知事に電話をかけ今の措置では不十分だと訴えます。知事は総督府に命令を仰ぎますが、その結果ペストの宣言がなされ、町の完全な閉鎖が決定されます。

 

こうしてオラン市と周りの町との往来は一切は遮断され、オランにとり残された人々は家族、恋人といった親しい人々と離れ離れになってしまったのです。リウーも療養に向かった妻と再会することができなくなってしまいます。

 

と、出だしはこんな感じの話です。続きが知りたいですよね?

 

小説「ペスト」には多くの魅力的な人物が登場し、ペストという不条理に対し、各々がそれぞれのやり方でこの難局に対処しようとします。

 

恋人と再会するため町から脱出を図る新聞記者リシャール。ペストの到来を人間が罪を犯した結果だと説くパヌルー神父。ペストの到来を喜ぶ密売人コタール。そして保険隊を組織してリウーと共にペストと戦うタルー。

 

主な登場人物ごとに不条理な世界での戦い方を見ていきます。

 

でも今日はここまで。続きはまた。

 

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ペスト (新潮文庫)

ペスト (新潮文庫)

 

 

決めない男が不幸を拡散する? シェイクスピア ハムレットのあらすじを解説


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「ソープへ行け!」というよくわからない名言で有名だったのは小説家の北方謙三ですが(古い話ですみません・・)、「尼寺へ行け」という、これもまたよくわからない名言で有名なのはシェイクスピアの戯曲「ハムレット」です。

 

このハムレットという男、”父親の敵(かたき)を取る”という明確な目的があるにも関わらず、やることがチグハグ。”狂人を装う”、”演劇会を開く”、”恋人の父親を誤って殺す”、”恋人を発狂させる”、”友人を死刑にする”・・・。ハムレットが復讐にもたつく間に、関係のない人が不幸に巻き込まれていきます。

 

ローレンス・オリビエが主演した映画「ハムレット」も「これは決断できない男の悲劇である」という、オリジナルにはない言葉で始まります。

 

決められない男ハムレットがどのように不幸を拡散していったのか、登場人物とあらすじを見ていきましょう。

 

主な登場人物

 

ハムレット:父親を殺し母を娶った王クローディアスに復讐を画策し、狂人になったふりをするが・・。

■亡霊:先の王でハムレットの父親。息子に自分の死の真相を告げる。

■クローディアス:現王でありハムレットの叔父。兄である先王を暗殺し王位につく。

■ガートルード:王妃でありハムレットの母。先王の死後、クローディアスと結婚する。

■オフィーリア:ハムレットの恋人。父親をハムレットに殺され正気を失う。

■ポローニアス:宰相。オフィーリアの父親。ハムレットに誤って殺されてしまう。

■レイアーティーズ:ポローニアスの息子。父親と妹の仇をうつためハムレットを殺そうとする。

■ホレイショー:ハムレットの友人。

■ローゼンクランツ、ギルデンスターン:ハムレットの友人だが、王の命令でハムレットの動向を探ろうとする。

■フォーティンブラス:ノルウェイの王子。

 

 

詳しいあらすじ ネタバレ注意!

 第一幕 化けて出てきたお父さん。息子ハムレットに面倒な宿題を出す

 所はデンマークのエルシノア城。この城に夜な夜な亡霊が現れるのを衛兵が目撃します。亡霊は2か月ほど前に毒蛇に噛まれて亡くなった先王に瓜二つ。先王の息子ハムレットは、さっそく友人のホレイショーらと亡霊の正体を突き止めようと城で待ちかまえます。

 

やがて甲冑に身を包んだ先王の亡霊が現れ、恐ろしい事実をハムレットに語りだします。「自分は昼寝をしているところを弟のクローディアス(現在の王、ハムレットの叔父)によって毒殺された。更にクローディアスは自分の妻ガートルードをたぶらかして娶ったのだ」と

 

亡霊は息子ハムレットに敵(かたき)を討つよう命じます。ハムレットは真実を知ってしまったがために復讐という重い宿命を背負うことになったのです。

この世の関節がはずれてしまったのだ。なんの因果か、それを直す役目を押し付けられるとは!(福田恒存訳 新潮文庫

  

一方ハムレットにはオフィーリアという恋人がいました。ところがオフィーリアの父親ポローニアスは、娘とハムレットの身分違いを危惧し、娘に「今後はハムレットと口をきいてはならぬ」と命じるのでした。

   

 第二幕 復讐するぞ!と勇んだものの、何故か発狂したふりをするハムレット

 

ハムレットはクローディアスへの復讐を果たすため、真意が悟られぬよう気が狂ったふりをします。クローディアスは甥の発狂の原因を探るため、ハムレットの友人ローゼンクランツとギルデンスターンに探りを入れさせますが、原因がわかりまん。

 

一方ポローニアスはハムレットが正気を失ったのは、自分の言いつけにより娘のオフィーリアがハムレットに冷たい態度を取ったためだと早合点します。ポローニアスは確証を得るため「オフィーリアとハムレットを鉢合わせさせて、陰で様子を見てみましょう!」とクローディアスに提案します。

 

 そんな折、旅芸人の一座が城にやってきます。ハムレットは一座に王殺しの劇を演じるよう命じます。それを鑑賞するクローディアスの様子を観察し、先王殺しの確証をつかもうと画策したのです。

 

 第三幕 「生きるべきか死ぬべきか?」ハムレットよ、おまえ自身が問題だ!

 

オフィーリアが本を読んでいると、そこにハムレットが現れます。「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」と有名なセリフをつぶやきながら。ハムレットは狂人を装いオフィーリアに悪態をつき、執拗に「尼寺に行け!」と繰り返します。オフィーリアは気高いハムレットがまるで別人にように変わってしまったことにショックを受けます。

 

ポローニアスとクローディアスは物陰に隠れて、その様子を盗み見していました。クローディアスはハムレットの発狂は失恋が原因ではなく、狂人を装い良からぬことを企んでいるのでは?と見抜きます。そして事が大事に至らぬ前に彼をイギリスに追いやろうと考えるのでした。

 

王の御前で旅芸人による劇が始まります。ところが劇は王が寝ている間に毒殺されるという内容。クローディアスはハムレットの悪意を知り激怒します。一方ハムレットはクローディアスの尋常ならざる様子を見て、先王殺しの犯罪を確信するにいたります。 

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観劇するハムレットとオフィーリア エドウィン・オースティン・アビーの作品

 

クローディアスは過去の自分の悪行を思い出し、神に一人祈ります。その様子を見かけたハムレットは今が復讐のチャンスと考えますが、神に祈りをささげている間に殺したのでは復讐にはならないと思案し、暗殺を思いとどまります。

 

母親ガートルードはハムレットの悪意あるふるまいに驚き、自分の居間に息子を呼び出します。ガートルードはハムレットの行いを諫めようとしますが、息子の暴力的な態度に身の危険を感じ、声をあげて人を呼びます。

 

その部屋の壁掛けにはポローニアスが隠れていました。ところがハムレットはクローディアスと勘違いし「おお!さては鼠か?くたばれ!」と言いながら、壁掛けごと剣で突き刺しポローニアスを殺してしまいます。

 

そこに先王の亡霊が現れ、ハムレットに復讐の催促をします。「忘れるなよ、ハムレット!その鈍った心を励ますためにここに来たのだ!」

 

 ハムレットはポローニアスの死体を引きずりながら、母の部屋を後にするのでした。

 

 

第四幕 オフィーリアは父親を殺され発狂 更に水死体で発見!

 ポローニアスの死を知ったクローディアスは身の危険を感じ、今夜中にハムレットを船に乗せイギリスに向かわせようとします。同行者はローゼンクランツとギルデンスターン。二人にはイギリス王への親書を持たせますが、そこには到着後ハムレットを殺してほしいとの依頼が書かれていました。

 

一方オフィーリアは父ポローニアスがハムレットに殺されたことを知り、精神錯乱状態となります。

 

ポローニアスの息子レイアーティーズは、ハムレットによって父親が殺されたことをクローディアスから聞かされ、また妹のオフィーリアが狂人となった姿を見てハムレットへの復讐を誓います。

 

そこにイギリスに渡航したはずのハムレットデンマークに帰国したとの知らせが入ります。ハムレットの船が海賊に襲われたため、これ幸いと戻ってきたのです。

 

ハムレットの帰国を知ったクローディアスとレイアーティーズはハムレットを殺すため共謀します。レイアーティーズに毒を塗った剣で試合をさせ、さらにハムレットに毒杯を与えようと考えたのです。

 

 その時ガートルードが現れ悲報を告げます。「オフィーリアが小川で溺れて死んだ」と。彼女は川辺に立つ柳の枝に花輪をかけようとし川に流されたのでした。妹の死を知ったレイアーティーズは、一層ハムレットへの怒りをつのらせるのでした。

 

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おそらく世界で最も有名な水死体 ジョン・エヴァレット・ミレイ<オフィーリア>

 

第五幕 全員死亡のクライマックス やけくそで王位もライバルにプレゼント?

 

 ハムレットがホレイショーと共に墓場にいると、棺桶を担いだ一行が現れます。ハムレットは隠れて様子を伺いますが、それがオフィーリアの葬式だと気づきます。ハムレットは期せずして姿を現しますが、その場にいたレイアーティーズと取っ組み合いのけんかとなるのでした。

 

城に戻ったハムレットはホレイショーにデンマークに帰国したいきさつを話します。実は船中でイギリス王への親書を盗み見し、クローディアスが自分を殺そうとしていることを知ったのでした。そこでハムレットは親書を書き換え、自分の代わりにローゼンクランツとギルデンスターンを死刑にするよう計らいます。その後船は海賊に襲われたためハムレットデンマークに一人帰国しましたが、ローゼンクランツとギルデンスターンはそのままイギリスに渡ったのでした。(親書の内容を知らないローゼンクランツとギルデンスターンは死刑になります・・・)

 

ハムレットはクローディアスの要請でレイアーティーズと剣試合をすることになります。試合の名目は賭け事の娯楽でしたが、実はハムレットの暗殺を目論んだものでした。

 

試合は一本目はハムレットが取ります。王は祝福し密かに毒をいれた杯をハムレットに渡そうとしますが、ハムレットは断ります。

 

二本目もハムレットが取ります。喜んだ母親のガートルードは杯に毒がもられたことを知らず、一人乾杯をしてしまいます。

  

三本目はレイアーティーズが油断したハムレットの背中を切り付けます。実はこの剣先には毒が塗られていました。二人は激しい取っ組み合いとなりますが、偶然にもお互いの剣が入れ替わり、クローディアスも傷を負います。

 

その時ガートルードが倒れ息絶えます。負傷したクローディアスは剣に毒を塗ったこと、杯に毒をもったこと、そしてその罪は王クローディアスにあることを告げ息絶えます。

 

全てを知ったハムレットはクローディアスを刺し、毒杯を飲ませて殺します。瀕死のハムレットは次期王をノルウェイの王子フォーティンブラスに託すようホレイショーに言い残して息絶えるのでした。 

 

感想・解説

賢いのかアホなのか?やることがチグハグなハムレット

  この戯曲で悪事を働いたのは先王を殺したクローディアスだけです。ですから事は単純なはず。さっさと王を殺せば良いのですから。でもハムレットが一人で事を複雑にしてしまうのです。

 

まず復讐するのに狂人を装う必然性はありません。かえって「俺は危ないやつだ」と余計なメッセージを送り警戒されてしまうのです。クローディアスはハムレットがオフィーリアに「尼寺に行け」と何度も繰り返す姿を見て「これは演技に違いない、何か企んでいるぞ」と勘繰りますし、演劇会がきっかけでハムレットの真意を見抜いてしまいます。「そりゃそうなるでしょ。」と突っ込みたくなりますが・・。

 

第三幕ではクローディアスが一人で神に祈りをささげているという絶好のチャンスが到来!でも「祈りの最中に殺したら復讐にならないな。そうだ!やっぱり悪事を働いている時を狙わなきゃ・・」と勝手な理由をつけて引き延ばし、挙句の果てに人違いをしてポローニアスを殺してしまいます。なにやってるんだい!

 

 しびれをきらした父親の亡霊からも「早く実行しろよ。でもお母さんを大切にな・・」と説教される始末。

 

そして衝撃のラストシーン。瀕死のハムレットはライバルだったノルウェイの王子フォーティンブラスをデンマーク国王に推挙・・って。えーっ?なんで???

 

目的と手段がチグハグで突っ込みどころ満載のハムレット。でもこうした人間の非合理的な側面が、この戯曲を魅力的な傑作にしています。合理的に行動したら悲劇になりませんからね。

  

端役ローゼンクランツとギルデンスターンは20世紀に救われる 

 割に合わない役がローゼンクランツとギルデンスターン。ハムレットの友人というだけで王からハムレットの様子を探るようスパイのような役目を仰せつかったり、イギリスに親書を持ってハムレットを連れていくよう命じられます。でも最後はハムレットが改ざんした偽親書のせいでイギリスで死刑!ハムレットも「まあ、自ら蒔いた種だからしょうがないでしょ」みたいなノリで同情心なし。なんだか虫けらのような扱いでかわいそうですね。

 

でもこの二人、20世紀になってようやく浮かべれる時がきます。イギリスの劇作家トム・ストッパードが「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」という戯曲を書いて1966年に上演したのです。端役から主役に大抜擢(笑)。その後1990年にはストッパードの監督で映画化され、ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞!なんとローゼンクランツをゲイリー・オールドマン、ギルデンスターンをティム・ロスが演じてるんです。豪華キャストですね。

 

更に2017年には日本でも生田斗真がローゼンクランツ役を、菅田将暉がギルデンスターン役を演じた舞台が上演されました。これで二人も成仏できた?

  

やっぱしシェイクスピアは舞台で見るべし?

  やっぱりシェイクスピアは舞台で楽しまなきゃ!と言っておきながらhirozonはまだ見たことがありません(涙)。という訳で藤原竜也×蜷川幸雄ハムレットの動画がありましたので貼っておきます。

 

藤原竜也 舞台 ハムレット 前半(壱) HAMLET(part1) - YouTube

  

それと2019年5月19日~6月2日まで渋谷bunkamuraシアターコクーンで舞台があります。ハムレットは 岡田将生、オフィーリアは黒木華。華ちゃんがかわいいので宣伝してあげます。

https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/19_hamlet/

 

ハムレットは何度も映画化されているのだ

舞台が見れない人は映画を見ましょう!本を読んでいるだけでは分かりにくい登場人物のテンションが理解できます。「めちゃめちゃ怒ってる!怖っ!」みたいな(笑)

 

・1948年のローレンス・オリヴィエ主演

・1990年のメル・ギブソン主演

・1996年のケネス・ブラナー主演

 

どれか一つを選ぶとすればケネス・ブラナー版。時代が19世紀に変更になっていますが、セリフを忠実に再現しているので戯曲から入った人には面白いかと。ただし字幕を追うのは大変です。しかも4時間・・・。 

ハムレット(字幕版)

ハムレット(字幕版)

  • Kenneth Branagh
  • ドラマ
  • ¥1500

 

ハムレット(字幕版)

ハムレット(字幕版)

 

  

さて「読むべきか読まざるべきか?」ハムレットのように悩むくらいならさっさと読むべし!新潮文庫は460円。500円玉一枚で楽しめます! 

 

ちなみに「ハムレット」はシェイクスピアの四大悲劇の一つ。

他の悲劇はこちらの解説をご覧ください。 ではまた。www.hirozon.com www.hirozon.com

  

ハムレット (新潮文庫)

ハムレット (新潮文庫)

 

 

昔のイギリスにも存在した沢尻エリカ シェイクスピア リア王

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「別に・・」の一言で一時期芸能会を干されてしまった沢尻エリカさん。発言もさることながらあの時のファッションも強烈でした。”原始家族フリントストーン””みたいな。でも最近はテレビでもよく見かけるようになり、完全に復活した様子です。よかったですね。

 

実は大昔のイギリスにもたった一言で人生を狂わせた女性がいました。その人の名はコーディリア。シェイクスピアの戯曲「リア王」に登場する悲劇のヒロインです。彼女を破滅に追いやった一言は「nothing」(何も・・)

 

でもエリカ様とは異なり彼女は悲劇的な最期を遂げます。たった一言がなぜ彼女の人生を狂わせたのか、さっそく「リア王」のあらすじを見てみましょう。

 

主な登場人物

リア王

ブリテンの王。国を三人の娘に分け与えようとするが、それが原因となり悲劇を引き起こす。

■ゴネリル

リア王の長女。夫はアルバニー公爵。リア王には美辞麗句を並び立て領土を手にするが、次第に父親を虐げるようになる。最後はエドマンドをめぐり妹のリーガンとも争うことに。

■リーガン

リア王の次女。夫はコーンウォール公爵。姉と一緒に父親を追放する。夫の死後はエドマンドと結婚しようとし姉と対立。

■コーディリア

リア王の三女。父親の怒りをかい追放されるが、フランス国王と結婚する。その後姉たちに虐げられた父親を救うため再度フランス軍とともにブリテンへ渡る。

 ■アルバニー公爵

ゴネリルの夫。エドマンドと共にフランス軍に勝利しリア王とコーディリアを捕えるが、最後は邪悪な野心を持つ妻とエドマンドを反逆罪で告発する。

コーンウォール公爵

リーガンの夫。グロスター伯爵がフランスと密通してるのを知り、グロスターの両目をえぐってしまう。

 

グロスター伯爵

リア王の忠臣。次男エドマンドにだまされ長男エドガーを追放してしまう。娘たちに追放されたリア王を救おうとするが、それがもとで両目をえぐられてしまう。

エドガー

グロスター伯爵の嫡男。腹違いの弟エドマンドの策略により父親から謀反の疑いをかけられる。逃亡した後「トム」に変装し両目を失った父親を助けようとする。

エドマンド

グロスター伯爵の庶子。父親のグロスターと兄のエドガーをだまし、嫡男としての権利を手に入れようとする。

 

■ケント伯爵

リア王の忠臣。コーディリアの追放を諫めようとして、自らもリア王の怒りを買い追放されてしまう。その後も変装してリア王に近づき王を助けようとする。

 

あらすじ

第一幕 言葉足らずな娘に父親が激怒。コーディリアよ、もっと空気を読め!

 

年老いたリア王は国を三人の娘たちに分け与え、自分は引退しようと考えていました。そこで娘たちに王への思いを述べさせ、それに応じて三分割した国を誰に与えるか決めようとします。

 

長女ゴネリルと次女リーガンは美辞麗句を並び立てリア王の愛情を勝ち得ますが、三女のコーディリアは「申し上げることはありません」と答えてしまいます。それを聞いたリアは「なんと冷たい娘だ」と激怒し、彼女には相続させず国外へ追い出してしまいます。コーディリアの真意は”感謝の気持ちはうわべだけの言葉では言い尽くせない”ということでしたが、年老いて偏屈となったリアはそうした娘の気持ちをすくい取ることがきませんでした。

 

王の忠臣ケント伯爵はコーディリアを不憫に思い、リアを諫めようとしますが、逆に怒りを買いケントまでもが追放されてしまします。

 

ちょうどその時フランス王がイギリスに滞在していましたが、コーディリアの真意を理解し、持参金を何一つ持たない彼女を妻としてフランスに連れ帰ります。

 

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コーディリアに激怒するリア王と、諫めようとするケント伯爵



一方リア王から国を相続した長女ゴネリルと次女リーガンですが、ちょっとしたことで癇癪を起す父親を見て、いずれは自分達の身にも災いが降りかかるかもしれないと危惧します。

 

さて、隠居したリア王ですが、まず長女ゴネリルの屋敷に滞在しようとやってきます。そこにはリア王に追放された忠臣ケント伯爵も、再び王に仕えるため別人になりすましてやってきました。

 

ところがゴネリルは相変わらず尊大にふるまうリア王に腹を立て、父親を無下に扱おうとします。彼女は王が引き連れてきた付き人を勝手に100人から50人に減らしてしまうのです。

 

リア王は以前とは打って変わって冷たい態度をとるようになった娘に腹を立て、もう世話にはならぬと次女リーガンの屋敷に向かうのでした。

 

一方リーガンはリア王との面会を避けるため屋敷を留守にし、夫のコーンウォール公爵と共にグロスター伯爵の屋敷へ行ってしまいます。

 

そのグロスター伯爵ですが、彼には二人の息子がいました。長男のエドガー、次男のエドマンド。エドマンドは自分が愛人との間にできた庶子のため軽んじられていると感じており、兄エドガーを失脚させ父親の土地を全て自分のものにしようと企んでいました。エドマンドは手紙をねつ造し、父親グロスター伯爵にはエドガーが命を狙っていると、エドガーには父親が激怒していると信じ込ませることに成功するのです。

 

第二幕 二人の娘から責められ、リア父さんはついに発狂!

エドガーは身の危険を感じ城を出て行方をくらませます。一方エドマンドは自身を刀剣で傷つけエドガーに殺されかけたと嘘をつきます。怒ったグロスター伯爵は長男エドガーを追放し、土地の相続権を次男エドマンドに与えてしまいます。

 

一方リーガンの屋敷を訪れたリアですが、すでに彼女は夫と共にグロスター伯爵の城へ発った後でした。リアは何の知らせもなく旅立った夫婦を訝りますが、自身も後を追ってグロスターの城を訪れます。しかしリーガンはなかなかリア王に会おうとしません。

 

ようやくリアはリーガンとコーンウォールと面会し、長女ゴネリルの冷たい態度を訴えます。ところがリーガンは姉の肩を持ち、逆にリアを非難します。そこにゴネリルも到着し二人してリア王を責め立てます。リーガンが王の付き人は25人までしか受け入れないと言うと、王は「では50人を認めてくれたゴネリルの屋敷に戻ろう」と語ります。それに対しゴネリルは「どうしてそんなに必要なのか?」と言い返し、更にリーガンは「1人でも必要か?」と吐き捨て王を追い詰めていくのでした。

 

 

第三幕 閲覧注意!?忠実な部下が両目をえぐられる話  

リアはとうとう精神に異常をきたし、嵐の中、荒野をさまよい歩きます。ケントはリアを探し出し小屋へと避難させますが、その小屋で王はトムとう名の狂人に出会います。実は父親グロスター伯殺害の容疑をかけられ逃亡したエドガーが狂人を装い小屋に避難していたのです。 

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嵐の中、小屋に避難するリア王様御一行

一方グロスターは荒野をさまようリアを助けるためフランス軍が上陸しているドーヴァーにリアを連れていき、保護しようと画策します。ところが息子のエドマンドは父親がフランス軍と通じていることを知ると、リーガンとコーンウォールに密告してしまうのです。怒ったコーンウォールグロスターを捕らえ、両目をえぐった上、城の外へ放り出してしまいます。しかしコーンウォールはあまりの非道ぶりに憤った召使に切りつけられ、致命傷を負うことになります。

 

グロスターは両目を喪い、ようやく自分がエドマンドにだまされていたこと、そしてエドガーには何の罪もないことを悟ったのでした。

  

第四幕 勘当した子供とのせつなすぎる再会 

 狂人トムに扮したエドガーは荒野で盲目となったグロスターと出会います。グロスターはドーヴァーの崖から身投げをするため、トムに道案内を頼みます。(グロスターは目が見えないため、トムが自分の息子エドガーだということを知りません)エドガーは父親の命を救おうと、平たんな場所を選び、高い崖だと嘘をつきます。グロスターは身投げした後、気を失いますが自分が生きていることに気づき驚きます。エドガーはたまたま通りかかった通行人を装い、あんな高いところから落ちて死ななかったのは奇跡であり、もう何も恐れることはないと、父親を励ますのでした。

 

ゴネリルはフランス軍との戦いに備えるよう、夫のアルバニー公爵を説得するため自分の屋敷へと向かいます。ところがアルバニーのゴネリルに対する態度は冷たいものでした。彼はリアに対するゴネリルのひどい仕打ちを知り彼女を責めます。ゴネリルもまた夫を不甲斐ないと思い始めます。そこにちょうどコーンウォールが死亡したとの知らせが入ります。アルバニーはコーンウォールが死んだ経緯と、彼の手によりグロスターが両目を失ったことを知り、グロスターのかたきをとることを決意します。

 

一方リア王はケント伯爵に導かれてドーヴァーまでやってきます。リアはほとんど正気を失っていましたが、コーディリアと再会し彼女に対するひどい仕打ちを詫びるのでした。

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リア王と再会するコーディリア

 

第五幕 救いの無い最後 そして誰もいなくなった・・・

フランスとブリテンの戦いの結果、フランス軍は敗れ、リア王とゴネリルは捕虜となります。

 

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獄中のリア王とコーディリア

一方、夫のコーンウォールを喪ったリーガンは、ブリテンを勝利に導いたエドマンドとの結婚を宣言をします。ところが姉のゴネリルもエドモンドに思いを馳せていたため、二人は言い争いになります。

 

ところがアルバニーはエドマンドと妻のゴネリルを反逆の罪で捕えると告発します。実はエドマンドとゴネリルは共謀してアルバニーを殺し、二人で結婚をする算段だったのです。(エドマンドは姉妹に二股をかけていたのですね!)

 

さらにアルバニーは伝令にラッパを吹かせ、エドマンドの反逆を訴える者がいれば名乗りをあげるよう呼びかけます。するとラッパに応え甲冑に身を固めた男が名乗りをあげ、エドマンドとの決闘に挑みます。エドマンドは致命傷を負い、甲冑の男がかつて自分が追放した兄のエドガーであることを知ります。

 

そこにゴネリルとリーガンの死が知らされます。ゴネリルは嫉妬のためリーガンに毒を盛り、短刀で自ら命を断ったのでした。

 

瀕死のエドマンドは部下に獄中のコーディリアを殺すよう指示していたことを告白します。エドガーは急いで暗殺を阻止しようとコーディリアの元に向かいますが、彼女はすでに殺されていました。正気を失ったリア王がコーディリアの死体を抱きながら現れますが、彼も絶望しながら息絶えるのでした。

 

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コーディリアの死と悲嘆にくれるリア王

感想

救いのない終わりですね。主要な登場人物はほとんど死んでしまいます。リア王、コーディリア、ゴネリル、リーガン、グロスター伯爵、エドマンド・・・

 

でも舞台を現代に移すとちょっとありそうな話だと思いませんか?例えば社長が引退した後もしょっちゅう会社にやってきて、相変わらず傍若無人にふるまってるとか。あるいは年老いた親を子供が虐待するとか。いかにもワイドショーにでてきそうな話ですよね。意外と現代に通じるテーマかなと。

 

またこの物語は二つのストーリーが表裏一体となって同時進行するという面白い構成となっています。主筋はリア王を中心するストーリーで「リア王は邪悪な長女と次女にたぶらかされ、誠実な三女を追放するが、正気を失った後、自身の過ちに気づきく」という話。副筋はグロスター伯爵を中心とするストーリーで「グロスター伯爵は邪悪な次男にたぶらかされ誠実な長男を追放するが、視力を失った後、自身の過ちに気づく」という話。構造はまったく同じストーリーですよね。二つのストーリーをうまくからめることにより、悲劇性を高める演出に成功していると思います。ちなみにトルストイは「副筋が邪魔だわい!」と批判したそうですが。

 

あと、今回のあらすじでは全てカットしましたが、実は「道化」が登場します。登場した時は度肝を抜かれました。王に対してすごいタメ愚痴ですから。「ねえ、おっさん、おっさん!」みたいな感じで辛辣なことも言いたい放題。リア王の気性の激しさから察するにすぐに殺されそうな気がするのですが、王は怒りません。道化は登場人物として描かれているのか、あるいは王の狂気を代弁する象徴的な役回りとして出てくるのか、さまざまな解釈が可能だと思います。

 

またシェイクスピアの劇団は人手不足で、道化はコーディリアと同じ役者が演じていたとの説があります。というのは道化とコーディリアが同時に出てくる場面がないのです。リア王が死んだコーディリアに向けた最後のセリフは「And My Fool is hang'd!」(おれの阿呆が首を絞められた)。道化も英語では「Fool」です。真実味のある説だと思いませんか?。

 

で、「リア王」を読んで誰かに推薦するか?と聞かれたら、う~ん・・・しませんね。(笑)

 

長い文章を読んでいただき最後にお勧めしませんというのもなんですが、面白い話ではないです。まずコーディリアの「なにも・・・」に対する王の怒りが理不尽すぎてついていけません。トルストイも「リアの怒りは不自然じゃねーの?」と批判しておられ、hirozonと同意見です。ちょっとうれしい。

 

それと狂人となったリア王、道化、トムの会話がシュールすぎて正直しんどいです。意味不明の会話が延々と続きます。何か深い意味があるのでは?と思うのですがhirozonの頭では理解できませんでした。

 

ちなみにhirozonの上司も理解不能な説教を延々とたれます。最初は「その背後にある真意を読み取ろう」と必死にヒアリングしようと努めていましたが、最近は「狂人なんじゃねーの?」と思うようにしています。(笑)

 

でもいろいろなところで引用される「リア王」。黒澤明「乱」リア王をベースにしていますからね。教養として読んでおくというのは有りだと思います。

 

リア王はシェイクスピの四大悲劇です。他の戯曲はマクベスハムレット、オセロー。

 

マクベスについてはこちらをご覧ください。 

 当たりすぎる占いは身を滅ぼす? シェイクスピア マクベス - 世界名作探訪

 

それではまた。

 

リア王 (新潮文庫)

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リア王 (光文社古典新訳文庫)

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シェイクスピア全集 (5) リア王 (ちくま文庫)

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リア王 (白水Uブックス (28))

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当たりすぎる占いは身を滅ぼす?  シェイクスピア マクベス


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もしよく当たる占い師から「あなたは将来社長になるだろう!」と言われたら?

 

ところが社長が次期後継者に実の息子を指名してしまったら、あなたはどうしますか? 

 

「そうだ、社長を殺そう!」と思った人は(いないと思いますが・・)シェイクスピアマクベスを読んで思いとどまるべきです。

 

マクベスは魔女の予言を信じ、王を殺害してしまいます。ところが自分が王位につくと、今度は別な予言が彼の思考を支配し身を亡ぼすことになるのです。いったいそれはどんな予言だったのか?

 

予言に振り回された悲劇の王「マクベス」のあらすじを見てみましょう。

  

主な登場人物

 ■マクベス

グラミスの領主。スコットランド王ダンカンの臣下。魔女の予言と妻にたぶらかされ、ダンカンを殺して王位に就く。しかし次第に正気を失い暴君と化す。ちなみに実在の人物。

マクベス夫人

躊躇するマクベスを焚き付け、王殺しを実行させる。

 

■ダンカン

スコットランドの王。信頼する臣下マクベスに暗殺される。この人も実在の人物(ダンカン1世)

■マルコム

ダンカン王の長男。王暗殺後はイングランドに逃走するが、マクベスを倒しに立ち上がる。実在の人物(マルコム三世)

■ドヌルべイン

ダンカン王の二男。王暗殺後はアイルランドに逃走。実在の人物(ドナルド三世)

 

■バンクォー

スコットランドの将軍。マクベスの友人であったが、魔女の予言を信じたマクベスによって暗殺される。実在の人物(現在のイギリス王室の先祖)

■フリーアンス

バンクォーの息子。マクベスに命を狙われるが逃げる。実在の人物

 

■マクダフ

スコットランドの貴族。ファイフの領主。イングランドに亡命したマルコムのもとに逃げたため、マクベスにより妻と子供を殺害される。マクベスへの復讐心を燃やす。

  

あらすじ

 第一幕 信じる者は救われない・・・悲劇を招いた予言とは?

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主人公はスコットランドの将軍でグラミスの領主マクベスノルウェーとの戦いで戦果を上げ将軍バンクォーと共に陣に戻ろうとします。ところがその道中で不気味な三人の魔女に出会います。

 

魔女はマクベスに「グラミスの領主」「コーダの領主」「いずれ王となられるお方」と呼びかけます。マクベスはグラミスの領主ですが、コーダの領主ではありません。まして王になれるはずもなく怪訝に思います。

 

一緒にいたバンクォーは自分にも何か予言をしてほしいと要求します。すると魔女は「自分が王にならなくても、子孫が王になる」と告げ、霧の中に消えていくのでした。

 

そこに王の使者が現れ、マクベスが武功によりコーダの領主に任ぜられたと伝えます。魔女の一つ目の予言は的中したのです。マクベスはもしや王にもなれるのでは?と心中密かに期待を膨らませます。

 

ところがダンカン王に謁見すると、王はマクベスとバンクォーの活躍をねぎらうものの、次期王は長男のマルコムに定めると宣言したのでした。

 

マクベス夫人はマクベスからの手紙で事の顛末を知り浮足立ちます。そして王がマクベスの城を訪れた際、暗殺するようマクベスを焚き付けたのです。マクベスは躊躇しますが、妻の誘惑に負け王殺しを決意します。 

 

やがて王の一行がマクベスの城を訪れ、宴会が始まります。

 

 第二幕 持つべきものは怖い妻。男の出世は妻次第?

 宴が終わり皆が寝静まった夜、マクベスは王の寝室へと向かいます。マクベス夫人が予め二人の見張り役を薬入りの酒で眠らせておいたのです。

 

やがて手を血で染めたマクベスが王の部屋から戻りますが、犯行に使った短剣を持ってきてしまいます。彼は王を殺した自責の念で幻聴を聞き、正気を失っていたのです。マクベス夫人は気弱となった夫を叱咤し、短剣を王の部屋に戻しに行きます。夫人がマクベスのもとに戻ると彼女の手もまた血で赤く染まっていました。二人は血を落としに部屋に戻ります。

 

朝が訪れ貴族たちが王を起こしに来ました。ところがマクダフが王の死体を見つけ、城は騒然となります。この混乱に乗じマクベスは二人の見張り役を殺害し、彼らに罪を擦り付けてしまいます。

 

ダンカン王の二人の王子は身に危険を感じ、マルコムはイングランドに、ドヌルベインはアイルランドに逃げてしまいます。その結果二人は事件の首謀者とされ、マクベスが次期王となることが決まります。

 

しかしマクダフは戴冠式に参加せず、自分の領地ファイフに向かうのでした。

 

第三幕 小心者は悪事に手を染めるな!亡霊との晩餐会が待ってるぞ!

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魔女の予言通り王となったマクベスですが、「バンクォーの子孫が王となる」というもう一つの予言が彼を苦しめ始めます。バンクォーの一族が彼の王位を脅かすことになると考えたのです。

 

マクベスはバンクォーとその息子フリーアンスの命を狙い3人の刺客を送ります。その結果バンクォーは暗殺されますが、フリーアンスは逃げ伸びます。

 

マクベスは刺客からその報告を受けます。ところが貴族が列席する晩餐会で、マクベスは死んだはずのバンクォーが席に座っているのを見て取り乱します。彼は精神を病み幻覚を見始めたのです。

第四話 魔女の迫力ある3D上映にマクベス絶句

不安に駆られたマクベスは魔女のもとを訪ね、新たな予言を聞き出そうとします。すると第一の幻影が現れ「マクダフに気をつけろ」と語ります。

 

次に第二の幻影が現れ「マクベスを倒すものはいない。女から生まれた者の中には」と告げます。マクベスはマクダフとの戦いに勝利を確信します。

 

最後に第三の幻影が現れ「マクベスは滅びない。バーナムの森が攻めてこない限りは」と伝えます。マクベスは木が動くなんてありえないと安堵します。

 

しかし彼がバンクォーの子孫が国を統べるのかと尋ねると、八人の王の亡霊が現れます。その姿はどれもバンクォーに似ていました。そして最後にはバンクォーの亡霊が現れ王の行列を指さし笑っていたのです。

 

そこにマクダフが裏切りイングランドに亡命したとの知らせが入ります。マクベスはファイフにあるマクダフの城を襲い妻と幼い子供を殺害してしまいます。(子供のかわいらしい会話と刺されながらも母親に逃げるよう促す姿が切ないです)

 

マクベスは暴君と化し周りの支持を失っていきました。

 

マクダフはイングランドに亡命していたマルコムに、スコットランドを救うため決起するよう促しますが、そこで妻と子供の死を知り、改めてマクベスへの憎しみを募らせるのでした。

 

 第五話 まるで詐欺!インチキ予言に振り回されたマクベスの最後

マクベス夫人は精神を病み夢遊病となります。眠りながら歩き回り、過去の悪事を話したり、手をこすり合わせて血をぬぐおうとするのです。侍医は彼女に必要なのは医者ではなく僧侶だと言い、治療をあきらめます。

 

マルコム率いるイングランド軍がマクベスの城を包囲します。マクベスの狂気に恐れをなしたスコットランドの貴族たちもイングランド軍に寝返りして戦います。

 

マクベスは「バーナムの森が攻めてこない限り滅びない」「女から生まれた者には倒せない」という魔女の予言を信じ、城に籠城します。

 

そこにマクベス夫人死亡の知らせが入ります。更に追い打ちをかけるように森が動いて攻めてくるという報告を受けます。実はマルコムが兵士の頭に木の枝をつけ進軍させたため、森が動いているように見えたのでした。

 

マクベスは魔女に裏切られたと考え自暴自棄となりますが、城を出て次々と敵を倒します。

 

とうとうマクベスとマクダフの一騎打ちとなります。マクベスは「自分は女から生まれた者には倒せない」と豪語しますが、マクダフは「自分は月足らずで母の胎内から引きずりだされた(帝王切開で生まれた)」と告げます。

 

最後の予言にも裏切られたマクベスは、運試しとばかりにマクダフに戦いを挑みますが、あえなく命を落とします。

 

マクダフがマクベスの首をマルコムに差出すと、一同は「万歳!スコットランド王」とマルコムを新しい王として讃えるのでした。

 

感想

大昔「一休さん」という謎の童話がありました(アニメじゃないよ)。マクベスを読んであの歌を思い出した人は、日本全国でも5人はいないでしょう。 こんな歌詞です。

 

一休さん

一休さん一休さん、その橋渡っちゃいけません。いえいえ、端は渡りません。真ん中通って来ましたよ。なーるほど、なーるほど、これは参ったしくじった、あははっほほ、おっほほほ ♪」

 

マクベス

「マクダフさん マクダフさん 女から生まれた者に私は殺せません。いえいえ女からは生まれてません。帝王切開で生まれましたよ。なーるほど、なーるほど、これは参ったしくじった、あははっほほ、おっほほほ ♪」

 

 マクベス一休さんの話は基本構造が同じだったのです。ただ違いは最後に「あははっ♪」とは言えないところ。そりゃ悲劇ですから。

 

でも「帝王切開でも女から生まれたことにはかわらないだろ!」と突っ込みたくなるところ。英語では one of woman borne。このborneというのが自然分娩を示唆してるらしく、英語圏の人にとっては違和感がないのだとか。そこでこのニュアンスを伝えるため邦訳では「女の股から生まれた~」等、翻訳者によって工夫がなされているのです。

 

ところで登場人物のマクベス、ダンカン王と二人の息子、そしてバンクォーはスコットランドに実在した人物です。

 

マクベス」が書かれたのは、ちょうどスコットランド王のジェームズ5世がイングランド王ジェームズ1世として即位した頃。そしてジェームズ1世はバンクォーの末裔なのです。そのためシェイクスピアはバンクォーを殺したマクベスを悪役とし、戯曲を書いたのでしょう。要は時の権力者へのよいしょです。ごますりはいつの時代でも大事ですからね。

 

かわいそうなのはマクベスです。たしかにダンカン1世を殺して王位につき、バンクォーも殺しているのは史実です。しかし17年の長きにわたりスコットランドを統治し、決して狂気に満ちた暴君ではありませんでした。シェイクスピアの歴史捏造によって気弱な悪党のイメージが後世に根付いてしまったではないですか!

 

でもマイナーな中世スコットランドの王様の中で、マクベスの名だけが燦然と輝いているわけですから、これはこれで良しとすべきか?

 

マクベスもあの世でこう言っているかもしれません。

 「これは参った。あははっほほ、おっほほほ ♪」(言う訳ない?)

   

 

マクベス」はシェイクスピアの四大悲劇「ハムレット」「オセロー」「リヤ王」の中で最も短く、あっという間に読めます。ストーリーも分かりやすくお値段も安いので(新潮文庫で400円!) お勧めです。

 

マクベス (新潮文庫)

マクベス (新潮文庫)

 

 

 

人間辛抱だ!待てばそのうち良いこともあるさ モンテ・クリスト伯⑦

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無実の罪で投獄されて・・・。

投獄まではされなくても、hirozonも無実の罪でよく上司から怒られます。「なんでボクが・・・」と思いつつ、言い訳しようものなら倍返し。とりあえず「申し訳ありません!!」と謝っておくのが日本のサラリーマンの掟。腹に据えかねますが多少のことなら我慢しましょう。給料は慰謝料みたいなものですから。

 

でも14年も投獄されたエドモン・ダンテスに「我慢」の二文字はありません。「俺をこんな境遇に貶めたやつらに、あらん限りの復讐をしてやる・・!」みたいな。

 

 そしていよいよ復讐の時が訪れます。残る宿敵、ヴィルフォールとダングラールの運命はいかに?(ネタばれ注意)

主な登場人物

モンテ・クリスト伯エドモン・ダンテス)

フェルナンを自殺に追いやった後、残る宿敵ヴィルフォール、ダングラールを追い詰め、復讐を果たそうとする。

 

■ヴィルフォール

裁判所で被告人ベネデットから過去の悪事を暴露される。最後は家族を全て喪った上、モンテ・クリスト伯の正体を知らされ正気を失う。

■ヴァランティーヌ(ヴィルフォールの娘)

継母エロイーズに毒殺されそうになるが、一命を取り留める。しかしモンテ・クリスト伯の薬で死に至る・・。えっ??

■エロイーズ(ヴィルフィール婦人)

 夫ヴィルフォールに悪行が暴かれ、幼い息子エドゥワールを道連れに自殺する。

 

■ダングラール

モンテ・クリスト伯の策略で破産寸前に追い込まれる。さらに山賊に監禁され飢え死にの危機に!

 

■アルベール

 財産を捨て母親メルセデスと共に家をでる。軍隊に入隊しアルジェリアに向かう。

メルセデス(アルベールの母親、ダンテスの昔の許嫁)

息子と共にマルセイユに向かうが、息子がアルジェリアに向かった後、かつてダンテスが暮らしていた家で一人で生活を始める。

 

■マクシミリヤン

恋人ヴァランティーヌが死んだと思い自分も死のうとするが、モンテ・クリスト伯から1か月だけ思いとどまるよう説得される。

 

■ベネデット

カドルッスを殺した罪で投獄されるが、裁判で自分がヴィルフォールの子供であることを暴露する。

  

あらすじ

1.継母に毒を盛られたヴァランティーヌ。一命を取り留めるも伯爵に殺される?

毒を飲まされ危うく死にかけたヴァランティーヌでしたが、祖父ノワルティエのおかげで一命をとりとめます。

  

ヴァランティーヌはモンテ・クリスト伯から恐ろしい真実を聞かされます。彼女の継母エロイーズこそが、サン・メラン侯爵夫妻、バロワを毒殺し、更にヴァランティーヌまで殺そうとしている真犯人だというのです。エロイーズは幼い息子エドゥワールに遺産を相続させるため、邪魔となるヴァランティーヌを毒殺しようとしたのでした。

 

モンテ・クリスト伯はヴァランティーヌの命を守ることを約束し、謎の丸薬を与えます。ところが彼女がそれを飲むと深い眠りに落ち、再び目覚めることはありませんでした。

 

父親のヴィルフォールも恋人のマクシミリヤンも彼女が死んだものと思います。

  

2.ヴィルフォールの最後はかなり悲惨。家族崩壊で発狂へ。

ヴィルフォールは娘の死を嘆き悲しみますが、更に追い打ちをかけるように犯人は自分の妻エロイーズであることを知ります。検事総長として妻の犯罪を見過ごす訳にもいかずヴィルフォールは苦悶します。

 

とうとうヴィルフォールは妻に犯罪を問い質し、自ら命を絶つことを要求します。そして自分は検事総長としての仕事を果たすため、裁判所に赴くのでした。

 

ベネデット(カヴァルカンティ)の裁判が始まりました。ヴィルフォールは家庭で起こった悲劇を微塵も感じさせず、毅然とした態度で裁判に臨みます。ところが裁判官がベネデットに名前を尋ねると、彼は意外なことを口にします。「自分は親から捨てられたため本当の名前は知らないが、父親の名前なら知っている。検事総長ヴィルフォールこそが自分の父親だ」と暴露したのです。

 

ヴィルフォールは、ベネットが自分とダングラールの妻エルミーヌとの間にできた不義の子供であったことに気づきます。

 

過去の悪事が暴かれたヴィルフォールは愕然として裁判所を後にしますが、妻エロイーズに自殺を強要したことを思い出し、家路を急ぎます。彼は妻が生きていてくれることことを願いますが、部屋で見たのは瀕死の妻の姿でした。 エロイーズは息絶えますが、悲劇はそれに留まりませんでした。彼女は幼い息子エドゥワールまでも道連れにしていたのです。

 

モンテ・クリスト伯はヴィルフォールの前に姿を現し、自分の正体が「エドモン・ダンテス」であることを明かします。しかし既にヴィルフォールには正気を保つ余力は残っていませんでした。過去の悪事を暴露され、全ての家族を亡くした彼はついに発狂してしまいます。

 

ヴィルフォールに対する復讐は終わりました。しかし罪の無い幼い子供の命まで奪う結果となり、モンテ・クリスト伯は自分の復讐に疑問を感じ始めます。

 

3.メルセデスとアルベール親子は下流階級にドロップアウト

 モルセール伯の自殺後、妻メルセデスとその息子アルベールはすべての財産を捨て、パリのホテルで貧しい生活をしていました。

 

とうとう無一文になったアルベールはメルセデスに二人でマルセイユに行くことを提案します。そこにはかつてエドモン・ダンテスが許嫁メルセデスのために自宅に埋めた3000フラン(約300万円)があったのです。モンテ・クリスト伯が二人を不憫に思い、与えたのでした。

 

アルベールは自分の時計を売り旅行費を捻出します。さらに アルジェリア騎兵隊に志願したことによって得た1000フランを母親に渡します。

 

アルベールはマルセイユに着くと、そこからアルジェリアに旅立ちました。自立しようとする息子を見送ったメルセデスは、かつてエドモン・ダンテスが暮らした家で一人ひっそりと暮らすのでした。

 

4.ダングラールの最後。目には目を、守銭奴には・・・? 

ヴィルフォールの家族の死により自分の行いに疑念を感じ始めたモンテ・クリスト伯でしたが、かつて幽閉されていたシャトー・ディフを再訪し、復讐への思いを再び奮い起こします。

 

最後の敵ダングラールは、モンテ・クリスト伯とボヴィル氏が彼の銀行から同時に多額の金額を引き出そうたしたことにより破産寸前となります。彼は観念し、妻を捨てローマに逃亡し、そこで伯爵の領収書と引き換えに5百5万フランの信用状を手にします。

 

ところがダングラールは山賊ルイジ・バンパの一味につかまり、洞窟に監禁されてしまいます。そして食事のたびに10万フラン(約1億円)を要求されるのでした。

 

彼の財産はついに5万フランを残して底をつき、飢え死にを覚悟します。意識がもうろうとする中、彼はモンテ・クリスト伯の姿を目にします。ダングラールの命運はいかに・・・(あとは小説を読んでくださいね) 

 

5.いい日旅立ち。最後の舞台はやはりあの島、モンテ・クリスト島で!

恋人ヴァランティーヌの死を知ったマクシミリヤンは絶望のあまりピストルで自殺を図ろうとしますが、モンテ・クリスト伯に助けられます。それでも死を望むマクシミリヤンにモンテ・クリスト伯は自分がエドモン・ダンテスであることを告げます。そして今日から一か月間生きていてくれれば、自分はマクシミリヤンを元気にさせることができる。もしそれができなければ希望通り自殺に協力すると約束するのでした。 (変な約束ですが・・)

 

二人はパリを出て故郷のマルセイユに向かいます。そこで1か月後の10月5日にモンテ・クリスト島で再会することを約束し別れます。(伯爵はダングラールに復讐するためローマに向かったのでした)

 

10月5日、約束の日が訪れました。マクシミリヤンはモンテ・クリスト島に上陸し、伯爵と再会を果たします。しかし伯爵の約束に反し、そこに彼を元気づけるものはありませんでした。マクシミリヤンは死を決意し、伯爵からもらった緑色の毒を飲みます。

 

マクシミリヤンは苦しみながら意識を失いますが、しばらくすると目を覚まします。彼は自分がまだ生きていることを知り失望しますが、目の前にいる人物を見て驚きます。そこにいたのは死んだはずのヴァランティーヌだったのです。

  

 モンテ・クリスト伯はヴァランティーヌを助けるため、彼女が死んだものと周囲の人に思わせようと画策し、エデのもとにかくまっていたのです。

 

マクシミリヤンはモンテ・クリスト伯からの手紙を受け取ります。そこにはこう記されていました。人生の本当の喜びを知るには大きな不幸を知らなければならない、そして人生の英知は次の言葉に尽きる。”待て、しかして希望せよ!”と。

 

マクシミリヤンとヴァランティーヌはモンテ・クリスト伯を探しますが、すでに最愛のエデと共に旅だった後でした。二人ははるかかなたの水平線に浮かぶ伯爵の船を見送りながら、いつの日か再会することを願い、伯爵の最後の言葉を胸に刻むのでした。

 

  

 感想

 「人間、辛抱だ!」と言ったのは二子山親方ですが(昭和のCMでね)、すでに19世紀のフランスでモンテ・クリスト伯の名言があったんですね。「待て、しかして希望せよ!」と。

 

とは言っても待たせすぎでしょ。ヴァランティーヌが生きていることを早くマクシミリヤンに教えてやれよ!春日八郎の「死んだはずだよお富さん♪」の歌詞がマクシミリヤンの頭にリフレインしたことでしょう。「生きていたとは、お釈迦様でも知らぬ仏のお富さん♪」(しつこいか・・)

 

でも14年も獄中生活を強いられたダンテスにとって、ここは未熟な若者に人生訓をたれたくなる場面でもあります。「おれの若い時はこんなもんじゃなかった」「あの時の経験があるから今の自分がある・・」職場のおじさんにたくさんいますよね、こんな人。

 

 たしかに成功や幸福を手にするためには多くの失敗や苦労が必要かもしれません。でも苦労が必ずしも将来の幸福を約束するわけではないとうのが辛いところ。「今はしんどいけど、希望を持って頑張る!」と自分を鼓舞するしかないわけです。希望通りの結末でなくても、もっと素敵なハッピーエンドが待っているかもしれません。蒔いた種は必ずしも自分が思った花ではないかもしれませんが、予想もしなかったもっと大きな花が咲くこともあるのですから。

 

マクシミリヤンはモンテ・クリスト伯の言うとおり1か月我慢したおかげで、伯爵の財産を丸ごと手にし、死んだはずの恋人とも結ばれるという怒涛のハッピーエンドを迎えます。うらやましいやつ!ちゃんと贈与税は払ったんだろうな?

 

一方悪役のヴィルフォール、ダングラール、モルセール伯には悲惨な結末が待っています。でもなぜか次第に悪役の方に肩入れしたくなるんですよね。物語の前半は悪役として登場しますが、中盤からはぞれぞれの家族事情が描かれ、そちらの話に引き込まれていきます。「どこの家族も大変だねぇ」みたいな。一方モンテ・クリスト伯はとんでもない大金持ち。発言も浮世離れしたものが多く次第に感情移入しにくくなっていくのです。また復讐もやりすぎ。家族を巻き込んではダメでしょう。復讐はターゲットを絞らないと。伯爵自身も幼いエドゥワールが死んだあたりで「やっぱやりすぎたかな~」とか今更ながら後悔しますが、気づくのが遅すぎです。どっちが悪役だかわからなくなります。

 

でも娯楽小説だから別に良いのです。面白ければね。ドストエフスキーみたいに「深いよね~」とか言って難しいことを考える必要はないのです。モンテ・クリスト伯は一級のエンターテイメント小説。気楽に読んでみてください。

 

買え!しかして読書せよ

 

モンテ・クリスト伯〈7〉 (岩波文庫)

モンテ・クリスト伯〈7〉 (岩波文庫)

 

 

 

モンテ・クリスト伯⑥ 復讐のはじまり

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モンテ・クリスト伯」はダングラール、フェルナン、ヴィルフォールの3悪党の家族のなが〜い四方山話を経て、第六巻から待ちに待った復讐劇が始まります。本当にここまで長かったですね(笑)。モンテ・クリスト伯がどのような復讐を企てるのか、ここからがクライマックスです!

 

 でもその前にカドルッスがどうなったのか見てみましょう。

カドルッスの最後

カドルッスはダンテスの仇敵ではありません。第一巻ではダングラールとフェルナンの悪だくみを知り義憤を感じますが、自分に害が及ぶのを恐れて、見て見ぬふりをしてしまうという役どころでしたね。第二巻ではブゾーニ司祭に変装したダンテスにダングラールとフェルナンの悪だくみを暴露し、ダイヤモンドをもらっています。ところが欲に目がくらんだカドルッスはこのダイヤがきっかけで宝石商を殺害し、刑務所送りとなってしまいます。

 

刑務所でカドルッスはベネデットと知り合い、脱獄を図ります。しかし脱獄後カドルッスが貧乏でみじめな暮らしをしているのに対し、ベネデットモンテ・クリスト伯の計らいでアンドレア・カヴァルカンティを名乗り、貴族のような羽振りの良い生活を始めます。

 

当然カドルッスは面白くありません。そこでベネディクトをゆすり、金の無心をするようになります。更にベネデットの後ろ盾がモンテ・クリスト伯なる大金持ちであることを知り、伯爵邸に忍び込み強盗殺人を企てるのです。

 

ところがカドルッスが屋敷に忍び込むと、そこにいたのはかつて彼にダイヤをくれたブゾーニ司祭だったのです(もちろんモンテ・クリスト伯の変装)カドルッスは驚き、屋敷から逃げだしますが、塀の外に隠れていたベネデットに刺されてしまいます。彼はカドルッスの存在が邪魔になり最初から殺す計画を立てていたのです。

 

瀕死のカドルッスはブゾーニ司祭に、ベネデットという名の男に刺されたこと、その男はカヴァルカンティを名乗っていることを告げて死んでいくのでした。

 

復讐その1 モルセール伯の場合

さて、第五巻で「ジャニナの要塞はフェルナンという名のフランス人士官の裏切りにより陥落した」とう新聞記事をめぐってアルベールとボーシャンは決闘騒ぎとなりました。「フェルナン」とは父親モルセール伯のことだとアルベールは思い、家族に対する侮辱と感じたのです。一方ボーシャンはその真偽を確かめるためジャニナに赴きます。しかしその結果はアルベールを落胆させるものでした。新聞記事は正しかったのです。ボーシャンはこの秘密は絶対に口外しないとアルベールに誓います。

 

その後アルベールはモンテ・クリスト伯に誘われノルマンディー旅行に出かけます。ところが二人が目的地に着くと、ボーシャンから緊急の知らせがはいります。「ジャニナ城を敵に渡したフェルナンという名の男は貴族院議員モルセール伯爵である」と別の新聞社が暴露したというのです。

 

モルセール伯は議会で身の潔白を証明する必要に迫られますが、それは成功するかのように見えました。ところがモンテ・クリスト伯の女奴隷エデが現れ、モルセール伯こそがジャニナの要塞を敵に渡し、自分を奴隷として売ったフェルナン・モンデゴその人だと証言したのです。大勢の貴族院議員が見守る中、モルセール伯の過去の悪事が白日のもとに晒されました。

 

アルベールは暴露記事の背後にダングラールがいることを知り、彼に詰問します。ところがダングラールはモンテ・クリスト伯の入れ知恵で動いていたのです。本当の敵はモンテ・クリスト伯だったことが明らかになったのです。

 

アルベールは怒りに任せ伯爵に決闘を申し込みます。伯爵もこれに応じアルベールを殺す準備をします。しかし決闘前夜、アルベールの母親メルセデスが伯爵の前に現れ、驚いたことに「エドモン・ダンテスさん」と彼の本当の名前で語りかけたのです。彼女はモンテ・クリスト伯がダンテスだということを最初から気づいていたのです。メルセデスは「罪は夫と自分だけにある。息子の命を助けてほしい」と懇願します。伯爵は情にほだされついついアルベールの命を助けること、そしてアルベールの代わりに自分が決闘で命を落とすことをメルセデスに誓ってしまいます。

 

決闘の朝がきました。立会人としてボーシャン、シャトー・ルノー、ドブレー、フランツ、マクシミリヤン、エマニュエルがやってきます。ところが決闘は直前に回避されます。実はメルセデスが過去のいきさつを全てアルベールに話したことにより、アルベールはモンテ・クリスト伯に謝罪をし、決闘を取りやめたのです。

 

アルベールは父親の悪行を恥じ、モルセールの名と財産を捨て、母親メルセデスと共に家を出ていくことを決意します。

 

モルセール伯は息子が決闘を回避したことを知り、自らモンテ・クリスト伯邸を訪ね、決闘を申し込みます。しかしモンテ・クリスト伯が船乗りの姿をして現れると、モルセール伯は、モンテ・クリスト伯の本当の正体、かれがエドモン・ダンテスだということに気づき、逃げるように屋敷に戻ります。

 

ちょうどその時メルセデスとアルベールは屋敷を捨て、出ていくところでした。モルセール伯ことフェルナン・モンデゴは社会的地位、名誉、そして家族全てを失い、失意の中ピストルで最後を遂げたのでした。

 

ヴァランティーヌの危機

 決闘の後、マクシミリヤンはヴァランティーヌのもとを訪れます。ところが彼女の顔色は悪く、ここ数日体調を崩しているようでした。そして意識が朦朧とする中、階段を踏み外し、ついに意識を失ってしまいます。実は彼女が飲んだ水差しに毒が盛られていたのです。

 

しかしヴァランティーヌは奇跡的に一命をとりとめます。実は祖父のノワルティエが彼女を助けるため、数日前から少量の毒のはいった水薬を彼女に与え、毒薬に慣れさせていたのです。

 

一方マクシミリヤンはヴァランティーヌのもとを去り、モンテ・クリスト伯に助けを求めに行きます。しかし伯爵の態度は冷たいものでした。「見ぬふりをして、神の裁きに任せるように」と忠告したのです。マクシミリヤンはヴァランティーヌを愛していると本心を告げます。するといつも冷静なモンテ・クリスト伯が声を荒げて激昂します。「あの呪われた一族の娘が好きだとは!」

 

マクシミリヤンは伯爵の急変した態度に驚きます。しかしモンテ・クリスト伯はすぐに冷静さを取り戻し「希望をおもちなさい。今ヴァランティーヌさんが生きておいでだったら、これからも死なずにすむでしょう」と彼女の命を保証するのでした。

ユージェニーとカヴァルカンティの結婚

 一方ダングラール家では娘のユージェニーとアンドレア・カヴァルカンティの結婚の準備が進んでいました。ところがユージェニーは結婚する気がないことを父親に告げます。彼女は自分が美しく芸術の才能があり父親の財産があるため、自立して生きていけると言うのです。傲慢な女ですね・・(笑)。 しかし実際にはダングラールは破産しかかっており、大金持ちと思しきカヴァルカンティと娘を結婚させる必要があったのです。

 

ユージェニーは事情を理解し結婚することは承認しますが、その後は自分の思い通りにさせてもらうと父親に認めさせます。彼女には何か企みがあるようです。

 

結婚契約書の署名式の日、ダングラール家には社交界の人々が大勢集まってきました。その最中、突然警察官が現れ場は騒然となります。「カヴァルカンティさんはいますか?彼は脱獄囚です。モンテ・クリスト伯邸でカドルッスを殺した罪で告発されています!」ところがカヴァルカンティの姿はありません。 彼は自分の身の危険を感じ、すでにその場から逃げだしていたのです。

 

一方ユージェニーもかねてから企てていた計画を実行します。友人のダルミー嬢と家を飛び出しイタリアに向かおうとしていたのです。

 

カヴァルカンティことベネデットはパリを北上し、コンピエールのホテルで一夜を明かします。ところが朝目を覚ますとホテルはすでに憲兵に取り囲まれていました。煙突から屋根上に脱出したものの、いずれは見つかってしまいます。そこで別の煙突に忍び込み姿を隠そうとしますが、途中で部屋に落ちてしまいます。その部屋に宿泊していたのは、同じくパリから脱出を企てていたユージェニーとダルミー嬢だったのです・・。

 

名運尽きたベネデットはとうとう捕まり、コンシェルジェリー監獄に収監されるのでした。

 

最後の煙突から落ちる場面は笑えるオチでしたね。それにしても仇敵のモルセール伯が自殺に追い込まれたのはしょうがないとしても、何の罪もない息子のアルベールを追い詰めたのは可哀そうでした。それにメルセデスも貧しく孤独の身のためフェルナンと結婚したのであって、彼女を責めるわけにはいかないでしょう。ちょっとモンテさんはやりすぎのような気がしますが、皆さんはどう思いましたか?

 

さて後は第七巻を残すのみとなりました。ヴィルフォールとダングラールの運命はいかに?

 

モンテ・クリスト伯〈6〉 (岩波文庫)

モンテ・クリスト伯〈6〉 (岩波文庫)

 

 

モンテ・クリスト伯⑤ ヴァランティーヌの結婚騒動

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モンテ・クリスト伯の第五巻(岩波文庫)はヴァランティーヌの結婚問題と彼女の周りで起こる不審な死亡事件を中心に話が進みます。モンテ・クリスト伯の出番が少なく、途中で誰が主人公だったか忘れてしまいそうですが、あくまでもモンテ・クリスト伯の復讐劇です。

 

また、モルセール伯爵がなぜ漁師から貴族に成り上がることができたのか、彼の秘密もだんだん分かってきますよ。

 

 ヴァランティーヌの結婚問題

ヴァランティーヌはフランツ・デピネーと婚約してることは前回の第四巻でお話ししましたね。彼女は本当はマクシミリヤン・モレルと結ばれたいと思っています。ところが父親のヴェルフォールが強引にフランツとの婚約を進めようとしています。

 

こうした中、ヴァランティーヌの母方の祖父母サン・メラン侯爵夫妻が、孫娘の結婚問題について話をするためマルセイユからパリのヴィルフォール家に向かいます。ところが侯爵は旅の途中で丸薬を飲んで急死してしまいます。サン・メラン侯爵夫人だけがヴィルフォール家にやってきますが、彼女も部屋でオレンジジェードを飲んだ後、体調を崩してしまいます。(オレンジジェードがジュースのことなのか、よくわかりませんでした・・・) 

 

サン・メラン侯爵夫人は自分の行く末が長くないことを悟り、自分の全財産がヴァランティーヌに相続されるよう取り計らいます。そしてフランツとの結婚を急いで進めようとします。

 

フランツがイタリアからパリにつき次第、結婚契約書に署名することが決まりました。ヴァランティーヌは庭の柵に隠れていたマクシミリヤンにこのことを告げます。二人は署名する前に駆け落ちして家から逃げることを誓います。

 

とうとうフランツがヴィルフォール家を訪れ、結婚契約書にが署名する日が来ました。マクシミリヤンは駆け落ちするため約束通り待ち合わせの場所を訪れます。ところが彼女はいつまでたってもやってきません。マクシミリヤンがしびれを切らし柵を越えて庭に隠れていると、ヴィルフォールと主治医のダウリニーがやってきます。そしてサン・メラン侯爵夫人がなくなったとの会話を盗み聞きします。このため婚約が延期されたのでした。

 

マクシミリヤンはヴァランティーヌと会うため、屋敷の中に侵入し、サン・メラン侯爵夫人の亡骸の傍らですすり泣く彼女を見つけます。

 

ヴァランティーヌはマクシミリヤンを祖父ノワルティエの部屋につれていきます。マクシミリヤンは二人で駆け落ちをしようとしている計画を老人に告げますが、彼は反対します。ノワルティエの指示は、自分に考えがあるのでそれを待てということでした。マクシミリヤンは彼を信じ屋敷を後にするのでした。

 

サン・メラン侯爵夫妻のお葬式が終わると、ヴィルフォールはこの後すぐに結婚の契約を取り交わすことにします。公証人デシャン、フランツの証人としてアルベール、シャトー・ルノー、そしてヴィルフォール夫人と息子のエドゥワールが見守る中、結婚の署名がはじまります。ところがその最中、ノワルティエの家令バロアが現れこう告げます。「ノワルティエさまがフランツ様とお話しを申し上げたいとおっしゃられておいでです!」

 

ヴィルフォールは断りますが、フランツはその申し出を受け入れ、ノワルティエの部屋を訪れることを決意します。フランツはノワルティエの彼に対する反感がいかに間違っているか証明しようと考えたのです。ところがノワルティエが語った話は、フランツが予期しないものでした。その結果この縁談は破談となります。どんな話だったかは小説を読んでくださいね。

 

こうしてヴァランティーヌは危機一髪のところでフランツとの婚約を免れたのです。でもフランツが可哀そうですね。彼は何一つ悪くないのですから。

 

モルセール伯の人に言えない出世物語

 

もう一方の婚約話、モルセール家の息子アルベールとダングラール家のユージェニー嬢との間にも不穏な空気が流れています。もともと若い二人が互いに関心がなかったことに加え、ダングラールの気持ちがモルセール家から離れてしまっていたのです。

 

ダングラールはモンテ・クリスト伯のたくらみで徐々に資産を減らしていました。そこで大資産家との噂のあるカヴァルカンティ家のアンドレアと娘を結婚させようと企んでいたのでした。ダングラールはモルセール家との婚約を破談にさせる口実を探していたのです。彼はモンテ・クリスト伯にモルセール伯が本当の貴族ではなくもともとはフェルナン・モンデゴという名の漁師だったこと、彼の出世がアリ・パシャ事件と何やら関係があるらしいとの噂がある事を漏らします。

 

モンテ・クリスト伯は「ジャニナ(現ギリシャのヨアニナ)にある取引先に手紙を出し、アリ・パシャが没落したとき、フェルナンという名のフランス人がなにをしていたのか確かめてもらえばよい」と入れ知恵をします。

 

ちなみにアリ・パシャ(=アリ・テブラン)というのはテぺデレンリ・アリー・パシャとのいう名の実在の人物です。オスマン帝国内のヨアニナを領地として半独立国のように振舞っていたのですが、最後はオスマン帝国のスルタン・マフメト二世により毒殺されてしまいます。

テペデレンリ・アリー・パシャ - Wikipedia

 

モンテ・クリスト伯の女奴隷エデはこのアリ・パシャの娘として小説に登場します。エデはアリ・パシャがフランス人士官の裏切りにより殺さ頃された後。奴隷商人に売られてしいますが、モンテ・クリストが彼女を買って助けたという訳です。

 

話を戻しますが、モルセール伯はダングラールの態度が一変し、この結婚に否定的な態度をとるようになったことに驚きます。ダングラールは決してその理由を言おうとしないどころか、「これ以上説明しないことを、むしろ感謝してほしい」とまで言うのです。

 

ほぼ時を同じくして、アルベールの友人ボーシャンが編集長を務める新聞にジャニナの要塞は、アリ・パシャが信頼していたフェルナンという名のフランス人士官の裏切によりトルコ軍に引き渡された」という記事が掲載されます。

 

新聞には「フェルナン」としか書かれていませんでしたがアルベールは自分の父親が侮辱されたと考え、ボーシャンに記事の撤回か、さもなくば決闘を求めます。

 

ボーシャンは事実の確認をするため三週間の猶予がほしいと願いますが、もし本当のことだったら記事の撤回はせず、アルベールの決闘の申し出を受け入れると話すのでした。

 

三つの殺人事件

最後にもう一度ヴィルフォール家に話を戻します。

 

フランツとの結婚が破談となって喜んだのはヴァランティーヌだけではありません。実は継母のエロイーズも内心ほっと一息ついていたのです。というのはのノワルティエはもしフランツとヴァランティーヌが結婚するなら自分の遺産を全て貧しい人に分け与えると遺言に残していました(第四巻)。破談によりノワルティエは財産を全て孫娘のヴァランティーヌに与えるよう遺言を変更したのです。財産を実の息子のエドゥワールに分けたいと思うエロイーズにとっても、この破談は都合の良いものだったです。

 

さて、もう一人大喜びしているのがマクシミリヤンです。彼はノワルティエに呼ばれ大急ぎでヴィルフォール邸にやってきます。ヴァランティーヌはノワルティエとこの屋敷を出ること、そしてマクシミリヤンとの結婚について話をします。マクシミリヤンは天にも昇る気持ちです。ところがその最中家令のバロアが倒れ、もがき苦しみ始めました。彼はのどが渇いたため、ノワルティエのために作られたレモネードを飲んでしまったのです。バロアは苦しみながら死んでいきました。

 

主治医ダウニーはヴィルフォールに、サン・メラン侯爵夫妻とバロアの死は病気ではなく毒を使った殺人だということ、バロアの死は、本当の狙いはノワルティエであったことを告げます。そして三人の死で得をする人物がこそが犯人であり、意外な人物の名を挙げます。それは三人の遺産を全て相続する人物、ヴァランティーヌだというのです。

 

今日はこの辺で、続きはまた。

モンテ・クリスト伯〈5〉 (岩波文庫)

モンテ・クリスト伯〈5〉 (岩波文庫)

 

 

モンテ・クリスト伯④ 複雑な家族の事情

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モンテ・クリスト伯の第四巻(岩波文庫版)は、伯爵の3人の敵、ダングラール、モルセール伯(フェルナン)、ヴィルフォールの家族を中心に話が進みます。三つの家族はそれぞれに問題を抱えながら、お互いが複雑に絡み合っています。その事情に付け込んでモンテ・クリスト伯はじわりじわりと家族に忍び寄るといった話です。今回は三つの家族、そしてカヴァルカンティなるインチキ貴族の話を中心にあらすじをご紹介します。

 

あらすじ

1.ヴィルフォール家のごたごた

ヴィルフォールには二人の子供がいます。一人は19歳の娘ヴァランティーヌ。彼女はヴィルフォールの前妻ルネとの間にできた子供です。ルネは第一巻にヴィルフォールの婚約者、サン・メラン侯爵の娘として登場しましたね。ところがその後ルネは死んでしまい、ヴァランティーヌは家族の中で孤立した存在となっています。

もう一人の子供が、ヴィルフォールと後妻のエロイーズとの間にできたエドゥワールです。彼は母親から溺愛されて育てられたためか、わがままで意地悪な少年です。(飼っているオウムの羽を抜いたり、インクを飲ませようとしたり・・・)

ヴァランティーヌは継母のエロイーズから憎まれており、肩身の狭い生活を送っています。何故かというとヴァランティーヌは母方のサン・メラン侯爵から莫大な遺産を相続することになっており、財産のないエロイーズは面白くないのです。「あの娘さえいなければ、サン・メランの遺産はいずれは息子エドゥワールのものになるのに・・・」と内心考えているのです。

またエロイーズはモンテ・クリスト伯から熱心に毒薬の話を聞き出します。毒薬に興味を持つ貴婦人というのはいささか不自然な設定ですが、これが後の事件の重要な伏線となっている訳ですね。面白さが半減するといけないのでこれ以上は触れません。

ちなみに途中でポントス王(今のトルコの一部)ミトリダテスの話がでてきすが、ミトリタデス6世のことで、世界で最初に解毒剤を作った人といわれています。ミトリダテスは自分が毒殺されないよう毎日少しづつ毒を飲み免疫を付けたそうです。最後は息子に裏切られ服毒自殺を図るのですが、免疫効果で死ねず部下に刺殺させたというオチです。また彼はモーツアルトのオペラ「ポントの王ミトリダーテ」の主人公でもあります。悪ガキのエドゥワールまで知っているくらいなので西欧では有名な話なのかもしれませんね。 

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話が戻りますが、ヴィルフォールは年頃となった娘のヴァランティーヌをフランツ・デピネーと結婚させようと考えています。ところがヴァランティーヌは気持ちがのりません。というのも彼女には恋人がいたのです。それは船主モレル氏の息子マクシミリアンでした。彼女は父親にそのことを言い出せずにいます。

第一巻で登場したヴィルフォールの父親ノワルティエは熱烈なナポレオン派で王党派の息子と対立していましたが、今や中風で全身不随の状態です。彼は目の動きだけでコミュニケーションをとり、その意味を解するのは息子のヴィルフォール、孫娘のヴァランティーヌ、老僕のバロワだけです。

ノワルティエはヴァランティーヌに特別な愛情を注いでいるのですが、フランツとの婚約を知って怒りを露わにします。実はフランツの父親は王党派のケネル将軍で、ナポレオン派に暗殺された人物です。そしてナポレオン派のノワルティエは彼の死に関与しています。この辺の話は第一巻に出てきましたね。そのためノワルティエはケネル将軍の息子との結婚に強く反対したのです。彼はヴァランティーヌをフランツと結婚させるなら、彼の遺産を家族の誰にも相続させず、貧しい人に全額寄付するという遺言書を作成してしまいます。

ちなみにノワルティエの遺産は90万フラン。1フラン=1000円で計算すると9億円です。ヴィルフォールは大金を失うことになりますが、それでもフランツとの婚約を推し進めようとします。

以上が第三巻で描かれるヴィルフォール家のすったもんだです。

2.モルセール家のごたごた

モルセール伯とメルセデスの息子アルベールにも婚約の話があります。こちらのお相手はダングラールの娘ユージェニーです。ところがこちらのカップルも結婚に乗り気ではありません。ユージェニーは美しい娘ではありますが、性格が強く芸術家肌の一面があり、アルベールの好みではないようです。

またアルベールの母親メルセデスもこの結婚には気が進みません。彼女はユージェニーの父親ダングラールが嫌いなのです。アルベールは母親を悲しませないためにもこの結婚を破談にしたいと考えており、モンテ・クリスト伯に悩みを打ち明けます。

3.ダングラール家のごたごた

ダングラールの娘ユージェニーもアルベールとの結婚を拒んでいます。というか彼女の場合は自立心の強い女性で結婚自体に関心がないようです。

また妻のエルミーヌは大臣秘書官のドブレーと不倫関係にあります。このドブレーが誤った情報をダングラールに伝えたためダングラールは株で70万フラン(約7億円)の大損を出してしまいます。誤った情報を流したのはモンテ・クリスト伯の陰謀だったのですが、ダングラールは知る由もありません。彼はエルミーヌに八つ当たりし、失った金の一部を補填しろと滅茶苦茶な難癖をつけ、夫婦喧嘩になります。

実はエルミーヌには誰にも言えない秘密があります。ダングラールと結婚する前、ヴィルフォールと不倫関係にあったのです。彼女は不義の子供を産みますが、死産と思いヴィルフォールが庭に埋めてしまいます。この話は第二巻にでてきましたね。その現場を今はモンテ・クリスト伯の家令を務めるベルツッチオが目撃し、子供を奪ってベネディクトと名付けて育てたという話でした。そして成長したベネデットは育ての母親を殺して行方をくらましたのでした。

4.カヴァルカンティ親子

カヴァルカンティの名はダンテの神曲にも登場します。ダンテは友人だった詩人のグイド・カヴァルカンティの父親を神曲の中に登場させ、なぜか地獄に落としています。その理由は神曲の中には記されていませんが、どうやら生前は無神論者だったため地獄行きとなったようです。

モンテ・クリスト伯の物語には二人の親子、バルトロメオ・カヴァルカンティとアンドレア・カヴァルカンティが登場し、神曲に登場するカヴァルカンティの子孫で名門の出身ということになっています。ところが実際は、全くの偽物で二人は貴族でもなければ親子でもありません。 バルトロメオブゾーニ司祭に、アンドレアはウィルモア卿から大金をもらって名門カヴァルカンティを演じているだけなのです。(もちろんブゾーニ司祭もウィルモア卿も、モンテ・クリスト伯の変装ですが)

この二人は何のために大金で雇われ、名門一族を演じさせられているのか全く理解していませんが、モンテ・クリスト伯からパリの社交界に大資産家として紹介されます。株で大金を失ったばかりのダングラールはさっそく彼らに取り入ろうとし、ビジネスの話をしだします。

ところでこの二人のうち重要なのはアンドレアです。彼はいったい何者のか?この第三巻で一番面白いところなのであえて伏せておきます。ぜひ本を読んでご自分の目で確かめてくださいね。

5.オートゥイユの別荘で晩餐会

モンテ・クリスト伯はパリ郊外のオートゥイユの別荘にパリで知り合った人たちを招き晩餐会を開きます。紹介された9名は以下の通り。モルセール家がいないのは、アルベールがダングラール家に会うのを嫌がったため、モンテ・クリスト伯の粋な取り計らいで免除されました。)
ヴィルフォール夫妻
ダングラール夫妻
カヴァルカンティ親子
マクシミリヤン・モレル
ドブレー
シャトー・ルノー
家令のベルツッチオは人数を確認するためサロンにこっそり顔を出しますが、そこで見た顔に腰を抜かすほど驚愕します。彼はいったい何を見たのでしょう?ここも面白いところなので伏せておきます。


第三巻はだいたいこんなお話しです。他にもモンテ・クリスト伯がモレル家を訪れた時の心温まる話など小話が盛沢山です。若干話が複雑なので、全7巻の中で最も読みにくいところかもしれませんが、最後のクライマックスにつながる大事な伏線が多いので、頑張って読んでみてください。

今日はこの辺で。

 

モンテ・クリスト伯〈4〉 (岩波文庫)

モンテ・クリスト伯〈4〉 (岩波文庫)

 

 

モンテ・クリスト伯③ 仇敵たちとの再会

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ブログを始めて4回目の投稿となりますが、こんなに文章を書くのが大変だとは思いませんでした。読んだばかりの本ならすぐに書けるかと思いましたが甘かった!もう一度最初から読み直す羽目に・・・。

 

それと文章の手直しに時間がかかります。なるべく完結な文章にしようと心がけているのですが、ついつい長くなってしまうんですよね。全体のストーリーを保ちながら、どの部分を省略するのか試行錯誤です。毎日アップしている人はどうやっているんでしょうか?本当に感心してしまいます。

  

でも今日も頑張って書きますよ。モンテクリスト伯第三巻(岩波文庫版)です。

 

◆あらすじ

 

1・アルベールの誘拐

 フランツはモンテ・クリスト伯がモンテ・クリスト島で出会った”船乗りシンドバッド”であることに気づきます。ところが伯爵はそのことに何も触れようとしません。不信に思いながらもフランツは伯爵の申し出を受け入れ、謝肉祭の馬車を借りることにします。

  

謝肉祭の狂乱の中フランツとアルベールは馬車に乗り込み町を行きかいます。その最中アルベールは田舎娘に扮した女性に心を奪われ、二人で会う約束を取り付けます。有頂天になるアルベール。ところが彼女はベッポという名の少年で、山賊ルイジ・ヴァンパの手先だったのです。

 

アルベールは山賊に誘拐されてしまいます。フランツのもとにルイジ・ヴァンパから身代金を要求する手紙が届きますが、手持ちの金はありません。フランツはモンテ・クリスト伯に助けを求めます。彼ならヴァンパと知り合いであり、アルベールを助けることができると考えたのです。伯爵はフランツが自分とヴァンパの関係を知っていたのに驚きますが、アルベールを救出することを了承します。

 

二人が山賊のアジトに赴くと、ヴァンパは伯爵の友人を誘拐してしまったことを謝罪し、アルベールを解放します。モンテ・クリスト伯のおかげでアルベールの命が助かったのです。

 

フランツは伯爵が山賊と関わり持っていることに懸念を抱きますが、命を助けられたアルベールは伯爵に心酔するようになります。そして彼をパリ社交界に紹介するため、三か月後にパリで再会することを約束するのでした。

 

2.パリへ、そしてフェルナン、メルセデスとの再会

モンテ・クリスト伯は約束通り3か月後にパリのアルベール邸を訪れます。アルベールの父親モルセール伯は、息子を山賊から助けてくれたことに対し感謝の意を示しますが、この男こそダンテスを牢獄に送るきかっけとなった男フェルナンだったのです!

 

続いてアルベールの母親メルセデスが現れますが、彼女はモンテ・クリスト伯の顔を見るなり青ざめてしまいます。彼が昔の許嫁ダンテスではないかと気づいたのです。そして息子にモンテ・クリスト伯には用心するようにと忠告し、深い物思いに耽るのでした。

 

3.ヴィルフォールの秘密

モンテ・クリスト伯はパリ近郊のオーティユに別荘を買います。ところが家来のベルツッチオはその別荘の名を聞くだけで戦慄してしまいます。実はかつてこの屋敷には検事総長ヴィルフォールが住んでおり、ベルツッチオは彼を殺すため屋敷の庭に忍び込んだことがあったのです。ベルツッチオはヴィルフォールから冷たい仕打ちを受けたことがあり、彼をに憎んでいたのでした。ベルツッチオはヴィルフォールの命を狙いナイフで襲います。ヴィルフォールは一命をとりとめましたが、土の中に隠した箱をベルツッチオに見られ、奪われてしまいます。

 

ベルツッチオが箱を持ち帰ると、中には生まれたばかりの赤ん坊が入っていました。この子はヴィルフォールが不倫相手(のちのダングラール夫人)に産ませた子供で、彼は不義の子を殺し、庭に埋めようとしていたのです。

 

後にベルツッチオと義理の姉アスンタは赤ん坊を引き取りベネデットと名付けて育てます。ところがこのベネデットは悪魔のような少年に成長し、育ての親であるアスンタを焼き殺して家を出てしまうのでした。

 

4.ダングラールとの再会

モンテ・クリスト伯は銀行家として名を成したダングラールのもとを訪ねます。伯爵は自分の財力を見せつけた上、無制限貸出を申し出て銀行家を驚かせます。

 

またダングラールの妻エルミーヌは彼女の自慢の馬が厩舎にいないのに気づきます。彼女は明日ヴィルフォールの妻エロイーズに馬を貸すことになっていたのですが、今朝破格の値段で買いたいとの申し出がありダングラールが彼女に黙って売ってしまたのです。夫婦喧嘩になりますが、実はその馬を買ったのモンテ・クリスト伯でした。伯爵はエロイーズに馬を返し、彼女からも信頼を得ます。

 

5.ヴィルフォールとの再会

翌日ヴィルフォールの後妻エロイーズは溺愛する息子のエドワード一緒にエルミーヌから借りた馬で出かけますが、馬車は暴走しモンテ・クリスト伯の黒人奴隷アリに助けられます。

 

ヴィルフォールは妻と息子を救ってくれたお礼を告げにモンテ・クリスト伯の屋敷を訪れますが、モンテ・クリスト伯の傲慢な態度に驚きます。彼は一つの野心を持っておりそれは神の摂理を実現することだというのです。(ヴィルフォールには分かりませんが、これは罪あるものに復讐を遂げることを暗に示しています。) 

 

その言葉を聞きヴィルフォールは自分の父親ノワルティエの話をします。かつてボナパルト派として権勢を握った人物でしたが、中風にかかり全身不随になっていたのです。ヴィルフォールは父親が神のおきてに背いたため、その罪として罰を落とされたのだと話し、モンテ・クリスト伯の屋敷を後にするのでした。

 

◆感想

ようやくモンテ・クリスト伯の登場ですね。計算に計算を重ね、モルセール家、ダングラール家、ヴィルフォール家に入り込もうと画策します。でもいくら何でも誰もダンテスだと気付かないのは不自然ですよね。さすがに元カノのメルセデスだけは気づいた様子ですが「だったらダンナのフェルナンに教えてやれよ!」と突っ込みたくなります。復讐の鬼が家族に迫っているんだから。

 

それとモンテ・クリスト伯は初対面であるはずのダングラール、ヴィルフォールに、ありえないような失礼な発言を連発します。もちろん根底に深い憎しみがあるのですが、どっちが悪人だかわからないような場面もあり、主人公に感情移入しにくいのです。

 

 モンテ・クリスト伯の部下に対する態度もブラック企業並みです。伯爵の命令を受け、アリが命を懸けてエローイーズとエドワードの親子を助けたのに、エロイーズがお礼を言おうとすると「お褒め言葉やお礼でアリを甘やかさないでください」「あれは私の奴隷なのです。私に仕えることがあれの義務です」「あれの命は私のものなのです」ってちょっとひどすぎだろー!と思います。ベルツッチオに過去のいきさつを白状させる場面もいじりながら楽しんでいるようですね。

 

なんだか変なキャラに変身してしまった旧ダンテスことモンテ・クリスト伯。いろいろ突っ込みながら楽しめるのも、この小説の魅力なのです!

  

 今日はこの辺で。

 

モンテ・クリスト伯〈3〉 (岩波文庫)

モンテ・クリスト伯〈3〉 (岩波文庫)

 

 

モンテ・クリスト伯② 脱獄、そして宝の島へ

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hirozonは仕事柄、よく出張先でキャバクラに連れていかれます。でも苦手なんですよ。女の子と話しをするのが。だって「モンテ・クリスト伯がねぇ〜」とか言ったってドン引されるだけでしょう・・・と思ったらそうでもないみたいです。 結構知ってるんですよ。テレビドラマのおかげで。

 

hirozon「最近モンテ・クリスト伯を読んでてね・・」

女の子「あっ!私もテレビで見たよ〜。本では主人公の名前は何ていうの?」

hirozon「エドモン・ダンテス」

女の子「テレビでは柴門暖(さいもんだん)だよ。似てるね!」

hirozon「ファリア司祭も出てくる?」

女の子「ファイリア真海!まったく同じだね。」

 

・・みたいな他愛もない会話で場をしのぐことに成功。 ということでモンテ・クリスト伯はキャバクラでも役に立つのです。 「ありがとうモンテ・クリスト伯!ありがとうディーン・フジオカ!」

 

モンテ・クリスト伯を読んで「いざ、キャバクラ!」

 

さて、今日は第二巻(岩波文庫版)のご説明です。

 

◆主な登場人物

  • ダンテス:脱獄後、モンテ・クリスト島で宝を見つけ巨万の富を得る 
  • ブゾーニ司祭(ダンテス):カドルッスを訪ねダンテスが死んだことを告げる
  • イギリス人商人(ダンテス):破産寸前のモレルを窮地から救う
  • 船乗シンドバッド(ダンテス):フランツを地下宮殿に招く

 

  • ファリア司祭:獄中で病死。宝のありかをダンテスに託す
  • カドルッス:ブゾーニ司祭にダンテスが罠にはめられた経緯を話す
  • カルコント:カドルッスの妻
  • ボヴィル:刑務検察官。イギリス人商人に監獄の記録を見せる

 

  • アルベール・ド・モルセール:フェルナンとメルセデスの息子 
  • フランツ・デピネー:アルベールの友人。モンテ・クリスト島で船乗りシンドバットと称する紳士と出会う

 

  •   ルイジ・ヴァンパ:山賊の親分。船乗りシンドバットと関係がある

 

◆あらすじ

1.脱獄、そして宝島へ

 「モンテ・クリスト島を忘れるなよ!」こう言い残して、ファリア司祭は病で息を引き取ります。またもや一人ぼっちになり絶望するダンテス。しかしある考えが浮かびます。

 

死体は袋に包まれ外に運び出され埋葬されます。そこでダンテスは袋の中の死体と入れ替わり、脱獄を図ろうとしたのです。

 

ダンテスは袋の中でその時を待ち続けます。やがて人夫により袋が運び出され、そのまま崖から海へ投げ捨てられました。とうとうシャトーディフから脱獄することに成功したのです!時は1829年。投獄されてから14年が経っていました。

 

ダンテスは命からがら真夜中の海を泳ぎ続け、ティブラン島にたどり着きます。そして偶然通りかかった密輸船ジュヌ・アメリー号に助け出され、しばらくの間彼らと共に密輸業に手を染めます。ダンテスの航海技術が買われ、彼らの信頼を得ることができたのです。

 

そんな中、密輸業者間の交易の中立地帯として、期せずしてモンテ・クリスト島に上陸することになります。ダンテスは仲間を欺き、一人で島に残り宝さがしを始めます。そして苦労の末、ようやく宝を見つけることに成功したのです。

  

2.仇敵たち

 莫大な富を手にしたダンテスは、司祭に変装し昔の友人カドルッスに会いに行きます。牢屋に幽閉されてから長い歳月が経ち、ダンテスの容貌はすっかり変わってしまっていました。そのためカドルッスは司祭がダンテスだとは気づきません。 

 

司祭に扮したダンテスはカドルッスからダングラール、フェルナンのかつての悪だくみを聞き出し、更に彼らの現況に驚かされます。ダングラールは 銀行家として成功し男爵に。フェルナンに至っては軍人として成功しモルセール伯爵となり、こともあろうにメルセデスを妻としていたのです。

 

またダンテスはトムソンアンドフレンチ商会のイギリス人商人に扮し、刑務検察官のボヴィルから刑務所のダンテスの記録を見せてもらいます。そこにはダンテスが脱獄を図り海に落ちて死亡したこと、そしてヴィルフォールがダンテスの逮捕に深く関与していた形跡が記されていました。

 

ダンテスは改めてダングラール、フェルナン、ヴィルフォールに燃えるような復讐の念を抱きます。

 

一方、一貫してダンテスの味方だった船主のモレルは、所有する全ての船が遭難に会い破産寸前となってました。ダンテスはトムソンアンドフレンチ商会のイギリス人商人としてモレルに近づき彼の窮地を救います。そしてヨットに乗り込みマルセイユの町を去っていったのでした。

 

3.青年貴族と不思議な紳士

時は1838年、舞台はイタリアに代わり、二人のフランス人青年貴族、アルベールとフランツの話となります。

 

フランツはフィレンツェに滞在中、余暇でモンテ・クリスト島に上陸しますが、そこで「船乗りシンドバッド」と名乗る不思議な紳士に出会います。フランツは目隠しをされた上で、シンドバッドの地下宮殿に招待され、豪勢な食事や大麻の歓待を受けたのです。

 

その後フランツはアルベールと共に謝肉祭を過ごすため、ローマのホテルに滞在します。そこで宿の主人からルイジ・バンパという名の恐ろしい山賊の話を聞かされます。またフランツはこのルイジ・バンパと船乗りシンドバットの間に何か関係があることを知り驚きます。

 

その夜、フランツとアルベールはコロッセオ観光に出かけます。フランツはそこで二人の男の会話を立ち聞きします。二人は明日公開死刑となる山賊を助ける手立てについて話し合っていたのでした。二人の姿は見えませんでしたが、フランツはその内の一人の声に聞き覚えがあまり、彼をモンテ・クリスト島で出会った船乗りシンドバットだと信じます。

 

次の日の夜、フランツとアルベールは劇場に出かけます。フランツは桟敷席にギリシャ人と思しき美しい女性を見つけ目を奪われますが、隣の連れ添いの紳士を見て驚きます。彼こそは船乗りシンドバッドその人だったのです。やはりシンドバットはローマに来ていたのです。

 

ホテルに戻るとモンテ・クリスト伯と名乗る宿泊客から謝肉祭に使う馬車と見学のための窓を差し上げたいとの申し出がありました。フランツとアルベールは謝肉祭で使用する馬車の予約が取れずに困っていたのです。翌朝二人はお礼のためその男の部屋を訪れます。部屋の主人が現れると、そこにいたのはモンテ・クリスト島で見た船乗りシンドバッド、劇場で見た紳士、まさにその人だったのです。 

◆感想

1.善人は救われる!

第二巻の一番の見せ所は通常は手に汗握る脱獄シーンと宝の発見だと思いますが、あまりにも有名なのでそれほどの印象はありませんでした。

 

それよりも印象に残ったのはモレル氏を破産から助ける場面です。モレル氏はダンテスが逮捕された後も、自分の身の危険も顧みず、ダンテスの父親の面倒を見ていました。こういう善行を積んだ人が最後は救われるという話は、我々の感情に自然と入ってきて、スカッとしますね。特にボロボロのお財布の話は感動しました。詳しい話はぜひ小説を読んでくださいね。

 

モレル氏を助けたダンテスはヨットに乗ってマルセイユをから旅立ちます。最後の言葉が印象的です。

 なさけよ、人道よ、恩義よ、さようなら・・・ 人の心を喜ばすすべての感情よ、さようなら! ・・・わたしは善人に報ゆるため、神に代わっておこなった・・・さて、いまこそは復讐の神よ、悪しきものを懲らすため、御身に代わっておこなわしたまえ!(山内義雄訳)

やさしいダンテスとはこれでお別れです。ついに復讐が始まるのです…と思ったら、肩透かしを食らいましたが・・・。

 

2.復讐の話はまだまだ先

急に話がアルベールとフランツという青年貴族の話にかわり、いったい復讐の話はどうなったんだい?という気分になります。と言うのも2人が今までの話とどう関係があるのか最初は分かりません。注意深く読んでいればアルベール・ド・モルセールという名前から、モルセール伯爵(フェルナン)とメルセデスの子供とうことに気づく人もいるでしょう。でもhirozonは記憶力が悪いのでモルセールって誰だっけ?という感じでなかなか分かりませんでした。

 

この後も山賊の話が挿入されたり、早く先を知りたい読者としては、どうでもよい話を聞かされている感じがします。でもこれも復讐の伏線となっているので、先を急がず楽しみながら読みましょう。

 

3.ダンテスのキャラが怖い人に

 モンテ・クリスト島の地下宮殿でアリという黒人奴隷がでてきます。彼はチュニス後宮を通ったという理由で王の怒りを買い、一日目に舌を、二日目に手を、三日目に首を切られて死刑になる運命でした。それを聞いたシンドバッド(=ダンテス)は「ちょうど口の聞けない奴隷が欲しかったんだよね」と思い、二日目に銃と交換で唖となった奴隷を手に入れたのです。長い牢獄生活がダンテスをサディストに変えてしまったのでしょうかね?

 

黒人と言えば、作者のアレクサンドル・デュマ・ペールにも黒人の血が流れています。おじいさんが農場経営で現在のハイチに赴き、そこで黒人奴隷との間にできた子供がデュマのお父さんだったんですね。ひょっとしたらアリの作中での扱いも、こうしたデュマの出自と関係があるのかもしれません。

 

今日はここまでです。続きはまた。

 

 

モンテ・クリスト伯① 無実の罪で投獄された男

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モンテ・クリスト伯を知ってますか?

 

日本では昔から「岩窟王」の名前で紹介され、児童向けの抄訳で読んだ方もいらっしゃるかと思います。最近はディーン・フジオカさんの主演でドラマ化もされましたね。

 

でもこの小説、本当は文庫本で全7冊(岩波文庫版)もある、とても長い小説なんです。

 

「無実の男が陰謀により孤島の牢獄に幽閉される。決死の脱獄、そして復讐のため仇敵のもとに別人となって現れる・・・」

 

これだけ読んでもわくわくしますね。実際読み始めると長編であることを忘れ、あっという間に読んでしまいます。

 

拘置所カルロス・ゴーンさんにも是非お勧めしたい!出所後は本当に復讐しそうで日産の役員さんも戦線恐慌でしょうね。ゴーンさんが無実かどうかは知る由もありませんが・・・。 

 

今回は全7冊のうちでも一押しの第1巻(岩波文庫版)をご紹介します。

 

◆主な登場人物

 

ダンテスの仲間

  • エドモン・ダンテス:物語の主人公 貿易船ファラオン号の一等運転士

  • ダンテスの父親:息子の無実を信じながら無念のうちこの世を去る

  • メルセデス:ダンテスの許嫁

  • モレル:ファラオン号の船主 ダンテスを船長に指名しようとする

  • ルクレール:ファラオン号の船長 ダンテスに手紙を託し死亡

  • ファリア司祭:牢獄でダンテスと知り合い、宝のありかを教える

ダンテスの敵

  • ダングラール:ファラオン号の会計士 ダンテスを罠にはめる

  • フェルナン:メルセデスに恋心をいだき、ダンテスに嫉妬

  • ヴィルフォール:検事代理 保身のためにダンテスを牢獄に送る

ヴィルフォールの家族

その他

  • カドルッス:ダングラールの悪だくみを知りながらダンマリを決め込む

  • ケネル将軍:王党派の軍人 ノワルティエに暗殺される 

 

◆あらすじ  

 

主人公ダンテスはファラオン号の一等運転士。船主のモレル氏からの信任も厚く次期船長候補です。美しい娘メルセデスとの婚約も決まっており明るい未来が約束されています。

 

しかし許婚式の最中、突然警察が現れダンテスは逮捕されてしまいます。実は密かに船長の座を狙っていた同僚のダングラールと、メルセデスに恋心をいだいていたフェルナンが、ダンテスを陥れるため嘘の告訴状を書いたのでした。

 

ダンテスは検事代理ヴェルフォールの尋問を受けることになります。最初ヴェルフォールはダンテスの無実を確信し、釈放しようとします。ところがダンテスの口から意外な人物の名前を聞かされ驚愕します。それはヴィルフォールの父親ノワルティエの名前だったのです。

 

熱烈なボナパルト派だったノワルティエはエルバ島島流しとなっていたナポレオンと密通し、王に謀反を企てていたのでした。

 

時代は復古王政の時代です。こんな事が世間に知れれば息子のヴィルフォール自身が失脚してしまいます。そこでダンテスの口を封じるため、彼を孤島の牢獄シャトーディフに幽閉してしまいます。

 

長い年月が経ち、やがてダンテスは獄中で囚人のファリオ司祭と知り合うことになります。

 

賢明なファリオ司祭はダンテスの話を聞き、ダングラール、フェルナン、ヴィルフォールがダンテスを罠に陥れたことを看破します。

 

自分の身になにが起こったのかようやく理解し、復讐の心を抱き始めたダンテス! 

 

その後二人はシャトーディフから脱獄を企てますが、ファリオ司祭が発病し脱獄を一度は諦めます。余命いくばくもない事を悟ったファリオ司祭はダンテスに一枚の古びた紙を託します。そこには15世紀の資産家スパダが隠した莫大な宝のありかが記されていたのでした。

 

◆感想

第一巻の大まかなあらすじだけでも盛沢山ですよね。登場人物も大勢でてきて整理するのも大変ですが、思ったことを3つにまとめてみました。

 

1.息もつかせぬストーリー展開

 この小説が読者を引き付けることに成功した理由は、一番の見せ場を物語の前半にもってきたことでしょう。主人公が出世・結婚という幸福の絶頂から一転地獄に突き落とされるというわかりやすい展開は、読者が共感しやすく、「復讐」というに動機に自然と感情移入するような構成になっています。

 

また細かい感情表現を省き出来事が次から次へと展開していく様は、スピード感があり、読者は知らず知らずのうちに物語の中に引き込まれていきます。

 

ところで皆さんも復讐したいやつの一人や二人はいるでしょう?hirozonも会社に3人はいます。でもこういうのに限って偉くなるんですよね。あれ、何でですかねぇ?この物語の悪役3人も大出世しますが、その話はまた今度。

 

2.時代に翻弄される主役たち

 物語に実際に起こった歴史的事件を取り入れ、登場人物が否応無しに時代に翻弄される様を描いています。こういった描写は当時のフランス人にとってリアリティがあり、共感を得やすかったのではないでしょうか。

  

18世紀後半から19世紀中ごろまでのフランスは政治的に大混乱の時代でした。

 

フランス革命 → 第一共和制 → 第一帝政(ナポレオン) → 復古王政(ルイ18世) →百日天下(ナポレオン) → 復古王政(ルイ18世復位、シャルル10世)→立憲君主制(7月革命・ルイ・フィリップ)→第二共和制(二月革命)→第二帝政(ナポレオン3世)→第三共和制

 

目まぐるしく時の権力者が変わる中、誰の味方につくかによって多くの人の運命が左右されたことでしょう。小説が新聞に連載されたのは1844年から1846年でしたが、ダンテスやヴィルフォールが自分の意志とは関係なく時代に翻弄される様は、当時のフランス人にとって感情移入しやすいテーマだったはずです。

 

ダンテスを監獄送りにした検察代理ヴィルフォールも、好き好んで悪事を働いたわけではありません。ボナパルト派の父親ノワルティエとエルバ島のナポレオンとの密通が発覚するのを恐れ、口封じのための苦渋の選択だったのです。

 

このお父さんのせいで、ヴィルフォールは王党派の姑サン・メラン侯爵夫人から散々嫌味を言われるは、ケネル将軍の暗殺でひやひやさせられるは、たまったものではありません。

 

ヴィルフォールの嘆きを聞いてあげましょう。

ああお父さん、お父さん、あなたはこの世にあって、いつまでこの私の幸福の邪魔をしようとなさるのです?わたしは永久にあなたの過去と闘わなければならないのですか?(山内義雄訳)

 

 何だか可哀そうな気もしますが、ボナパルト派の父親と王党派の息子の確執は、この物語の後半まですっと重要な伏線となります。

 

3.海と宝島

主人公ダンテスを船乗に設定したのもグッドアイデアだったと思います。孤島シャトーディフからの脱獄、海賊との出会い、モンテクリスト島の宝さがしといった、スティーヴンソンの「宝島」のような海洋冒険小説の要素が加り、そこが子供向けの抄訳で広く普及した理由だと思います。

 

ルネサンス時代の大金持ちスパダが宝を隠した理由も面白かったですね。アレクサンドル6世やチェーザレ・ボルジアといった実在の人物も登場し、いかにも本当らしさを演出します。ダンテスも最初は信じていませんでしたが、だんだん「本当っぽいぞ・・」と思い始めたようですし。

 

でも宝さがしの前に、まずは脱獄しないとね。ということで続きはまた今度。

 

 

モンテ・クリスト伯〈1〉 (岩波文庫)

モンテ・クリスト伯〈1〉 (岩波文庫)