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モンテ・クリスト伯④ 複雑な家族の事情

 

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モンテ・クリスト伯の第四巻(岩波文庫版)は、伯爵の3人の敵、ダングラール、モルセール伯(フェルナン)、ヴィルフォールの家族を中心に話が進みます。三つの家族はそれぞれに問題を抱えながら、お互いが複雑に絡み合っています。その事情に付け込んでモンテ・クリスト伯はじわりじわりと家族に忍び寄るといった話です。今回は三つの家族、そしてカヴァルカンティなるインチキ貴族の話を中心にあらすじをご紹介します。

 

あらすじ

1.ヴィルフォール家のごたごた

ヴィルフォールには二人の子供がいます。一人は19歳の娘ヴァランティーヌ。彼女はヴィルフォールの前妻ルネとの間にできた子供です。ルネは第一巻にヴィルフォールの婚約者、サン・メラン侯爵の娘として登場しましたね。ところがその後ルネは死んでしまい、ヴァランティーヌは家族の中で孤立した存在となっています。

もう一人の子供が、ヴィルフォールと後妻のエロイーズとの間にできたエドゥワールです。彼は母親から溺愛されて育てられたためか、わがままで意地悪な少年です。(飼っているオウムの羽を抜いたり、インクを飲ませようとしたり・・・)

ヴァランティーヌは継母のエロイーズから憎まれており、肩身の狭い生活を送っています。何故かというとヴァランティーヌは母方のサン・メラン侯爵から莫大な遺産を相続することになっており、財産のないエロイーズは面白くないのです。「あの娘さえいなければ、サン・メランの遺産はいずれは息子エドゥワールのものになるのに・・・」と内心考えているのです。

またエロイーズはモンテ・クリスト伯から熱心に毒薬の話を聞き出します。毒薬に興味を持つ貴婦人というのはいささか不自然な設定ですが、これが後の事件の重要な伏線となっている訳ですね。面白さが半減するといけないのでこれ以上は触れません。

ちなみに途中でポントス王(今のトルコの一部)ミトリダテスの話がでてきすが、ミトリタデス6世のことで、世界で最初に解毒剤を作った人といわれています。ミトリダテスは自分が毒殺されないよう毎日少しづつ毒を飲み免疫を付けたそうです。最後は息子に裏切られ服毒自殺を図るのですが、免疫効果で死ねず部下に刺殺させたというオチです。また彼はモーツアルトのオペラ「ポントの王ミトリダーテ」の主人公でもあります。悪ガキのエドゥワールまで知っているくらいなので西欧では有名な話なのかもしれませんね。 

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話が戻りますが、ヴィルフォールは年頃となった娘のヴァランティーヌをフランツ・デピネーと結婚させようと考えています。ところがヴァランティーヌは気持ちがのりません。というのも彼女には恋人がいたのです。それは船主モレル氏の息子マクシミリアンでした。彼女は父親にそのことを言い出せずにいます。

第一巻で登場したヴィルフォールの父親ノワルティエは熱烈なナポレオン派で王党派の息子と対立していましたが、今や中風で全身不随の状態です。彼は目の動きだけでコミュニケーションをとり、その意味を解するのは息子のヴィルフォール、孫娘のヴァランティーヌ、老僕のバロワだけです。

ノワルティエはヴァランティーヌに特別な愛情を注いでいるのですが、フランツとの婚約を知って怒りを露わにします。実はフランツの父親は王党派のケネル将軍で、ナポレオン派に暗殺された人物です。そしてナポレオン派のノワルティエは彼の死に関与しています。この辺の話は第一巻に出てきましたね。そのためノワルティエはケネル将軍の息子との結婚に強く反対したのです。彼はヴァランティーヌをフランツと結婚させるなら、彼の遺産を家族の誰にも相続させず、貧しい人に全額寄付するという遺言書を作成してしまいます。

ちなみにノワルティエの遺産は90万フラン。1フラン=1000円で計算すると9億円です。ヴィルフォールは大金を失うことになりますが、それでもフランツとの婚約を推し進めようとします。

以上が第三巻で描かれるヴィルフォール家のすったもんだです。

2.モルセール家のごたごた

モルセール伯とメルセデスの息子アルベールにも婚約の話があります。こちらのお相手はダングラールの娘ユージェニーです。ところがこちらのカップルも結婚に乗り気ではありません。ユージェニーは美しい娘ではありますが、性格が強く芸術家肌の一面があり、アルベールの好みではないようです。

またアルベールの母親メルセデスもこの結婚には気が進みません。彼女はユージェニーの父親ダングラールが嫌いなのです。アルベールは母親を悲しませないためにもこの結婚を破談にしたいと考えており、モンテ・クリスト伯に悩みを打ち明けます。

3.ダングラール家のごたごた

ダングラールの娘ユージェニーもアルベールとの結婚を拒んでいます。というか彼女の場合は自立心の強い女性で結婚自体に関心がないようです。

また妻のエルミーヌは大臣秘書官のドブレーと不倫関係にあります。このドブレーが誤った情報をダングラールに伝えたためダングラールは株で70万フラン(約7億円)の大損を出してしまいます。誤った情報を流したのはモンテ・クリスト伯の陰謀だったのですが、ダングラールは知る由もありません。彼はエルミーヌに八つ当たりし、失った金の一部を補填しろと滅茶苦茶な難癖をつけ、夫婦喧嘩になります。

実はエルミーヌには誰にも言えない秘密があります。ダングラールと結婚する前、ヴィルフォールと不倫関係にあったのです。彼女は不義の子供を産みますが、死産と思いヴィルフォールが庭に埋めてしまいます。この話は第二巻にでてきましたね。その現場を今はモンテ・クリスト伯の家令を務めるベルツッチオが目撃し、子供を奪ってベネディクトと名付けて育てたという話でした。そして成長したベネデットは育ての母親を殺して行方をくらましたのでした。

4.カヴァルカンティ親子

カヴァルカンティの名はダンテの神曲にも登場します。ダンテは友人だった詩人のグイド・カヴァルカンティの父親を神曲の中に登場させ、なぜか地獄に落としています。その理由は神曲の中には記されていませんが、どうやら生前は無神論者だったため地獄行きとなったようです。

モンテ・クリスト伯の物語には二人の親子、バルトロメオ・カヴァルカンティとアンドレア・カヴァルカンティが登場し、神曲に登場するカヴァルカンティの子孫で名門の出身ということになっています。ところが実際は、全くの偽物で二人は貴族でもなければ親子でもありません。 バルトロメオブゾーニ司祭に、アンドレアはウィルモア卿から大金をもらって名門カヴァルカンティを演じているだけなのです。(もちろんブゾーニ司祭もウィルモア卿も、モンテ・クリスト伯の変装ですが)

この二人は何のために大金で雇われ、名門一族を演じさせられているのか全く理解していませんが、モンテ・クリスト伯からパリの社交界に大資産家として紹介されます。株で大金を失ったばかりのダングラールはさっそく彼らに取り入ろうとし、ビジネスの話をしだします。

ところでこの二人のうち重要なのはアンドレアです。彼はいったい何者のか?この第三巻で一番面白いところなのであえて伏せておきます。ぜひ本を読んでご自分の目で確かめてくださいね。

5.オートゥイユの別荘で晩餐会

モンテ・クリスト伯はパリ郊外のオートゥイユの別荘にパリで知り合った人たちを招き晩餐会を開きます。紹介された9名は以下の通り。モルセール家がいないのは、アルベールがダングラール家に会うのを嫌がったため、モンテ・クリスト伯の粋な取り計らいで免除されました。)
ヴィルフォール夫妻
ダングラール夫妻
カヴァルカンティ親子
マクシミリヤン・モレル
ドブレー
シャトー・ルノー
家令のベルツッチオは人数を確認するためサロンにこっそり顔を出しますが、そこで見た顔に腰を抜かすほど驚愕します。彼はいったい何を見たのでしょう?ここも面白いところなので伏せておきます。


第三巻はだいたいこんなお話しです。他にもモンテ・クリスト伯がモレル家を訪れた時の心温まる話など小話が盛沢山です。若干話が複雑なので、全7巻の中で最も読みにくいところかもしれませんが、最後のクライマックスにつながる大事な伏線が多いので、頑張って読んでみてください。

今日はこの辺で。

 

モンテ・クリスト伯〈4〉 (岩波文庫)

モンテ・クリスト伯〈4〉 (岩波文庫)