世界の小説 名作探訪

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当たりすぎる占いは身を滅ぼす?  シェイクスピア マクベス

 


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もしよく当たる占い師から「あなたは将来社長になるだろう!」と言われたら?

 

ところが社長が次期後継者に実の息子を指名してしまったら、あなたはどうしますか? 

 

「そうだ、社長を殺そう!」と思った人は(いないと思いますが・・)シェイクスピアマクベスを読んで思いとどまるべきです。

 

マクベスは魔女の予言を信じ、王を殺害してしまいます。ところが自分が王位につくと、今度は別な予言が彼の思考を支配し身を亡ぼすことになるのです。いったいそれはどんな予言だったのか?

 

予言に振り回された悲劇の王「マクベス」のあらすじを見てみましょう。

  

主な登場人物

 ■マクベス

グラミスの領主。スコットランド王ダンカンの臣下。魔女の予言と妻にたぶらかされ、ダンカンを殺して王位に就く。しかし次第に正気を失い暴君と化す。ちなみに実在の人物。

マクベス夫人

躊躇するマクベスを焚き付け、王殺しを実行させる。

 

■ダンカン

スコットランドの王。信頼する臣下マクベスに暗殺される。この人も実在の人物(ダンカン1世)

■マルコム

ダンカン王の長男。王暗殺後はイングランドに逃走するが、マクベスを倒しに立ち上がる。実在の人物(マルコム三世)

■ドヌルべイン

ダンカン王の二男。王暗殺後はアイルランドに逃走。実在の人物(ドナルド三世)

 

■バンクォー

スコットランドの将軍。マクベスの友人であったが、魔女の予言を信じたマクベスによって暗殺される。実在の人物(現在のイギリス王室の先祖)

■フリーアンス

バンクォーの息子。マクベスに命を狙われるが逃げる。実在の人物

 

■マクダフ

スコットランドの貴族。ファイフの領主。イングランドに亡命したマルコムのもとに逃げたため、マクベスにより妻と子供を殺害される。マクベスへの復讐心を燃やす。

  

あらすじ

 第一幕 信じる者は救われない・・・悲劇を招いた予言とは?

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主人公はスコットランドの将軍でグラミスの領主マクベスノルウェーとの戦いで戦果を上げ将軍バンクォーと共に陣に戻ろうとします。ところがその道中で不気味な三人の魔女に出会います。

 

魔女はマクベスに「グラミスの領主」「コーダの領主」「いずれ王となられるお方」と呼びかけます。マクベスはグラミスの領主ですが、コーダの領主ではありません。まして王になれるはずもなく怪訝に思います。

 

一緒にいたバンクォーは自分にも何か予言をしてほしいと要求します。すると魔女は「自分が王にならなくても、子孫が王になる」と告げ、霧の中に消えていくのでした。

 

そこに王の使者が現れ、マクベスが武功によりコーダの領主に任ぜられたと伝えます。魔女の一つ目の予言は的中したのです。マクベスはもしや王にもなれるのでは?と心中密かに期待を膨らませます。

 

ところがダンカン王に謁見すると、王はマクベスとバンクォーの活躍をねぎらうものの、次期王は長男のマルコムに定めると宣言したのでした。

 

マクベス夫人はマクベスからの手紙で事の顛末を知り浮足立ちます。そして王がマクベスの城を訪れた際、暗殺するようマクベスを焚き付けたのです。マクベスは躊躇しますが、妻の誘惑に負け王殺しを決意します。 

 

やがて王の一行がマクベスの城を訪れ、宴会が始まります。

 

 第二幕 持つべきものは怖い妻。男の出世は妻次第?

 宴が終わり皆が寝静まった夜、マクベスは王の寝室へと向かいます。マクベス夫人が予め二人の見張り役を薬入りの酒で眠らせておいたのです。

 

やがて手を血で染めたマクベスが王の部屋から戻りますが、犯行に使った短剣を持ってきてしまいます。彼は王を殺した自責の念で幻聴を聞き、正気を失っていたのです。マクベス夫人は気弱となった夫を叱咤し、短剣を王の部屋に戻しに行きます。夫人がマクベスのもとに戻ると彼女の手もまた血で赤く染まっていました。二人は血を落としに部屋に戻ります。

 

朝が訪れ貴族たちが王を起こしに来ました。ところがマクダフが王の死体を見つけ、城は騒然となります。この混乱に乗じマクベスは二人の見張り役を殺害し、彼らに罪を擦り付けてしまいます。

 

ダンカン王の二人の王子は身に危険を感じ、マルコムはイングランドに、ドヌルベインはアイルランドに逃げてしまいます。その結果二人は事件の首謀者とされ、マクベスが次期王となることが決まります。

 

しかしマクダフは戴冠式に参加せず、自分の領地ファイフに向かうのでした。

 

第三幕 小心者は悪事に手を染めるな!亡霊との晩餐会が待ってるぞ!

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魔女の予言通り王となったマクベスですが、「バンクォーの子孫が王となる」というもう一つの予言が彼を苦しめ始めます。バンクォーの一族が彼の王位を脅かすことになると考えたのです。

 

マクベスはバンクォーとその息子フリーアンスの命を狙い3人の刺客を送ります。その結果バンクォーは暗殺されますが、フリーアンスは逃げ伸びます。

 

マクベスは刺客からその報告を受けます。ところが貴族が列席する晩餐会で、マクベスは死んだはずのバンクォーが席に座っているのを見て取り乱します。彼は精神を病み幻覚を見始めたのです。

第四話 魔女の迫力ある3D上映にマクベス絶句

不安に駆られたマクベスは魔女のもとを訪ね、新たな予言を聞き出そうとします。すると第一の幻影が現れ「マクダフに気をつけろ」と語ります。

 

次に第二の幻影が現れ「マクベスを倒すものはいない。女から生まれた者の中には」と告げます。マクベスはマクダフとの戦いに勝利を確信します。

 

最後に第三の幻影が現れ「マクベスは滅びない。バーナムの森が攻めてこない限りは」と伝えます。マクベスは木が動くなんてありえないと安堵します。

 

しかし彼がバンクォーの子孫が国を統べるのかと尋ねると、八人の王の亡霊が現れます。その姿はどれもバンクォーに似ていました。そして最後にはバンクォーの亡霊が現れ王の行列を指さし笑っていたのです。

 

そこにマクダフが裏切りイングランドに亡命したとの知らせが入ります。マクベスはファイフにあるマクダフの城を襲い妻と幼い子供を殺害してしまいます。(子供のかわいらしい会話と刺されながらも母親に逃げるよう促す姿が切ないです)

 

マクベスは暴君と化し周りの支持を失っていきました。

 

マクダフはイングランドに亡命していたマルコムに、スコットランドを救うため決起するよう促しますが、そこで妻と子供の死を知り、改めてマクベスへの憎しみを募らせるのでした。

 

 第五話 まるで詐欺!インチキ予言に振り回されたマクベスの最後

マクベス夫人は精神を病み夢遊病となります。眠りながら歩き回り、過去の悪事を話したり、手をこすり合わせて血をぬぐおうとするのです。侍医は彼女に必要なのは医者ではなく僧侶だと言い、治療をあきらめます。

 

マルコム率いるイングランド軍がマクベスの城を包囲します。マクベスの狂気に恐れをなしたスコットランドの貴族たちもイングランド軍に寝返りして戦います。

 

マクベスは「バーナムの森が攻めてこない限り滅びない」「女から生まれた者には倒せない」という魔女の予言を信じ、城に籠城します。

 

そこにマクベス夫人死亡の知らせが入ります。更に追い打ちをかけるように森が動いて攻めてくるという報告を受けます。実はマルコムが兵士の頭に木の枝をつけ進軍させたため、森が動いているように見えたのでした。

 

マクベスは魔女に裏切られたと考え自暴自棄となりますが、城を出て次々と敵を倒します。

 

とうとうマクベスとマクダフの一騎打ちとなります。マクベスは「自分は女から生まれた者には倒せない」と豪語しますが、マクダフは「自分は月足らずで母の胎内から引きずりだされた(帝王切開で生まれた)」と告げます。

 

最後の予言にも裏切られたマクベスは、運試しとばかりにマクダフに戦いを挑みますが、あえなく命を落とします。

 

マクダフがマクベスの首をマルコムに差出すと、一同は「万歳!スコットランド王」とマルコムを新しい王として讃えるのでした。

 

感想

大昔「一休さん」という謎の童話がありました(アニメじゃないよ)。マクベスを読んであの歌を思い出した人は、日本全国でも5人はいないでしょう。 こんな歌詞です。

 

一休さん

一休さん一休さん、その橋渡っちゃいけません。いえいえ、端は渡りません。真ん中通って来ましたよ。なーるほど、なーるほど、これは参ったしくじった、あははっほほ、おっほほほ ♪」

 

マクベス

「マクダフさん マクダフさん 女から生まれた者に私は殺せません。いえいえ女からは生まれてません。帝王切開で生まれましたよ。なーるほど、なーるほど、これは参ったしくじった、あははっほほ、おっほほほ ♪」

 

 マクベス一休さんの話は基本構造が同じだったのです。ただ違いは最後に「あははっ♪」とは言えないところ。そりゃ悲劇ですから。

 

でも「帝王切開でも女から生まれたことにはかわらないだろ!」と突っ込みたくなるところ。英語では one of woman borne。このborneというのが自然分娩を示唆してるらしく、英語圏の人にとっては違和感がないのだとか。そこでこのニュアンスを伝えるため邦訳では「女の股から生まれた~」等、翻訳者によって工夫がなされているのです。

 

ところで登場人物のマクベス、ダンカン王と二人の息子、そしてバンクォーはスコットランドに実在した人物です。

 

マクベス」が書かれたのは、ちょうどスコットランド王のジェームズ5世がイングランド王ジェームズ1世として即位した頃。そしてジェームズ1世はバンクォーの末裔なのです。そのためシェイクスピアはバンクォーを殺したマクベスを悪役とし、戯曲を書いたのでしょう。要は時の権力者へのよいしょです。ごますりはいつの時代でも大事ですからね。

 

かわいそうなのはマクベスです。たしかにダンカン1世を殺して王位につき、バンクォーも殺しているのは史実です。しかし17年の長きにわたりスコットランドを統治し、決して狂気に満ちた暴君ではありませんでした。シェイクスピアの歴史捏造によって気弱な悪党のイメージが後世に根付いてしまったではないですか!

 

でもマイナーな中世スコットランドの王様の中で、マクベスの名だけが燦然と輝いているわけですから、これはこれで良しとすべきか?

 

マクベスもあの世でこう言っているかもしれません。

 「これは参った。あははっほほ、おっほほほ ♪」(言う訳ない?)

   

 

マクベス」はシェイクスピアの四大悲劇「ハムレット」「オセロー」「リヤ王」の中で最も短く、あっという間に読めます。ストーリーも分かりやすくお値段も安いので(新潮文庫で400円!) お勧めです。

 

マクベス (新潮文庫)

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