世界の小説 名作探訪

小説のあらずじ・感想を思いつくままに綴ります

人間辛抱だ!待てばそのうち良いこともあるさ モンテ・クリスト伯⑦

 

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無実の罪で投獄されて・・・。

投獄まではされなくても、hirozonも無実の罪でよく上司から怒られます。「なんでボクが・・・」と思いつつ、言い訳しようものなら倍返し。とりあえず「申し訳ありません!!」と謝っておくのが日本のサラリーマンの掟。腹に据えかねますが多少のことなら我慢しましょう。給料は慰謝料みたいなものですから。

 

でも14年も投獄されたエドモン・ダンテスに「我慢」の二文字はありません。「俺をこんな境遇に貶めたやつらに、あらん限りの復讐をしてやる・・!」みたいな。

 

 そしていよいよ復讐の時が訪れます。残る宿敵、ヴィルフォールとダングラールの運命はいかに?(ネタばれ注意)

主な登場人物

モンテ・クリスト伯エドモン・ダンテス)

フェルナンを自殺に追いやった後、残る宿敵ヴィルフォール、ダングラールを追い詰め、復讐を果たそうとする。

 

■ヴィルフォール

裁判所で被告人ベネデットから過去の悪事を暴露される。最後は家族を全て喪った上、モンテ・クリスト伯の正体を知らされ正気を失う。

■ヴァランティーヌ(ヴィルフォールの娘)

継母エロイーズに毒殺されそうになるが、一命を取り留める。しかしモンテ・クリスト伯の薬で死に至る・・。えっ??

■エロイーズ(ヴィルフィール婦人)

 夫ヴィルフォールに悪行が暴かれ、幼い息子エドゥワールを道連れに自殺する。

 

■ダングラール

モンテ・クリスト伯の策略で破産寸前に追い込まれる。さらに山賊に監禁され飢え死にの危機に!

 

■アルベール

 財産を捨て母親メルセデスと共に家をでる。軍隊に入隊しアルジェリアに向かう。

メルセデス(アルベールの母親、ダンテスの昔の許嫁)

息子と共にマルセイユに向かうが、息子がアルジェリアに向かった後、かつてダンテスが暮らしていた家で一人で生活を始める。

 

■マクシミリヤン

恋人ヴァランティーヌが死んだと思い自分も死のうとするが、モンテ・クリスト伯から1か月だけ思いとどまるよう説得される。

 

■ベネデット

カドルッスを殺した罪で投獄されるが、裁判で自分がヴィルフォールの子供であることを暴露する。

  

あらすじ

1.継母に毒を盛られたヴァランティーヌ。一命を取り留めるも伯爵に殺される?

毒を飲まされ危うく死にかけたヴァランティーヌでしたが、祖父ノワルティエのおかげで一命をとりとめます。

  

ヴァランティーヌはモンテ・クリスト伯から恐ろしい真実を聞かされます。彼女の継母エロイーズこそが、サン・メラン侯爵夫妻、バロワを毒殺し、更にヴァランティーヌまで殺そうとしている真犯人だというのです。エロイーズは幼い息子エドゥワールに遺産を相続させるため、邪魔となるヴァランティーヌを毒殺しようとしたのでした。

 

モンテ・クリスト伯はヴァランティーヌの命を守ることを約束し、謎の丸薬を与えます。ところが彼女がそれを飲むと深い眠りに落ち、再び目覚めることはありませんでした。

 

父親のヴィルフォールも恋人のマクシミリヤンも彼女が死んだものと思います。

  

2.ヴィルフォールの最後はかなり悲惨。家族崩壊で発狂へ。

ヴィルフォールは娘の死を嘆き悲しみますが、更に追い打ちをかけるように犯人は自分の妻エロイーズであることを知ります。検事総長として妻の犯罪を見過ごす訳にもいかずヴィルフォールは苦悶します。

 

とうとうヴィルフォールは妻に犯罪を問い質し、自ら命を絶つことを要求します。そして自分は検事総長としての仕事を果たすため、裁判所に赴くのでした。

 

ベネデット(カヴァルカンティ)の裁判が始まりました。ヴィルフォールは家庭で起こった悲劇を微塵も感じさせず、毅然とした態度で裁判に臨みます。ところが裁判官がベネデットに名前を尋ねると、彼は意外なことを口にします。「自分は親から捨てられたため本当の名前は知らないが、父親の名前なら知っている。検事総長ヴィルフォールこそが自分の父親だ」と暴露したのです。

 

ヴィルフォールは、ベネットが自分とダングラールの妻エルミーヌとの間にできた不義の子供であったことに気づきます。

 

過去の悪事が暴かれたヴィルフォールは愕然として裁判所を後にしますが、妻エロイーズに自殺を強要したことを思い出し、家路を急ぎます。彼は妻が生きていてくれることことを願いますが、部屋で見たのは瀕死の妻の姿でした。 エロイーズは息絶えますが、悲劇はそれに留まりませんでした。彼女は幼い息子エドゥワールまでも道連れにしていたのです。

 

モンテ・クリスト伯はヴィルフォールの前に姿を現し、自分の正体が「エドモン・ダンテス」であることを明かします。しかし既にヴィルフォールには正気を保つ余力は残っていませんでした。過去の悪事を暴露され、全ての家族を亡くした彼はついに発狂してしまいます。

 

ヴィルフォールに対する復讐は終わりました。しかし罪の無い幼い子供の命まで奪う結果となり、モンテ・クリスト伯は自分の復讐に疑問を感じ始めます。

 

3.メルセデスとアルベール親子は下流階級にドロップアウト

 モルセール伯の自殺後、妻メルセデスとその息子アルベールはすべての財産を捨て、パリのホテルで貧しい生活をしていました。

 

とうとう無一文になったアルベールはメルセデスに二人でマルセイユに行くことを提案します。そこにはかつてエドモン・ダンテスが許嫁メルセデスのために自宅に埋めた3000フラン(約300万円)があったのです。モンテ・クリスト伯が二人を不憫に思い、与えたのでした。

 

アルベールは自分の時計を売り旅行費を捻出します。さらに アルジェリア騎兵隊に志願したことによって得た1000フランを母親に渡します。

 

アルベールはマルセイユに着くと、そこからアルジェリアに旅立ちました。自立しようとする息子を見送ったメルセデスは、かつてエドモン・ダンテスが暮らした家で一人ひっそりと暮らすのでした。

 

4.ダングラールの最後。目には目を、守銭奴には・・・? 

ヴィルフォールの家族の死により自分の行いに疑念を感じ始めたモンテ・クリスト伯でしたが、かつて幽閉されていたシャトー・ディフを再訪し、復讐への思いを再び奮い起こします。

 

最後の敵ダングラールは、モンテ・クリスト伯とボヴィル氏が彼の銀行から同時に多額の金額を引き出そうたしたことにより破産寸前となります。彼は観念し、妻を捨てローマに逃亡し、そこで伯爵の領収書と引き換えに5百5万フランの信用状を手にします。

 

ところがダングラールは山賊ルイジ・バンパの一味につかまり、洞窟に監禁されてしまいます。そして食事のたびに10万フラン(約1億円)を要求されるのでした。

 

彼の財産はついに5万フランを残して底をつき、飢え死にを覚悟します。意識がもうろうとする中、彼はモンテ・クリスト伯の姿を目にします。ダングラールの命運はいかに・・・(あとは小説を読んでくださいね) 

 

5.いい日旅立ち。最後の舞台はやはりあの島、モンテ・クリスト島で!

恋人ヴァランティーヌの死を知ったマクシミリヤンは絶望のあまりピストルで自殺を図ろうとしますが、モンテ・クリスト伯に助けられます。それでも死を望むマクシミリヤンにモンテ・クリスト伯は自分がエドモン・ダンテスであることを告げます。そして今日から一か月間生きていてくれれば、自分はマクシミリヤンを元気にさせることができる。もしそれができなければ希望通り自殺に協力すると約束するのでした。 (変な約束ですが・・)

 

二人はパリを出て故郷のマルセイユに向かいます。そこで1か月後の10月5日にモンテ・クリスト島で再会することを約束し別れます。(伯爵はダングラールに復讐するためローマに向かったのでした)

 

10月5日、約束の日が訪れました。マクシミリヤンはモンテ・クリスト島に上陸し、伯爵と再会を果たします。しかし伯爵の約束に反し、そこに彼を元気づけるものはありませんでした。マクシミリヤンは死を決意し、伯爵からもらった緑色の毒を飲みます。

 

マクシミリヤンは苦しみながら意識を失いますが、しばらくすると目を覚まします。彼は自分がまだ生きていることを知り失望しますが、目の前にいる人物を見て驚きます。そこにいたのは死んだはずのヴァランティーヌだったのです。

  

 モンテ・クリスト伯はヴァランティーヌを助けるため、彼女が死んだものと周囲の人に思わせようと画策し、エデのもとにかくまっていたのです。

 

マクシミリヤンはモンテ・クリスト伯からの手紙を受け取ります。そこにはこう記されていました。人生の本当の喜びを知るには大きな不幸を知らなければならない、そして人生の英知は次の言葉に尽きる。”待て、しかして希望せよ!”と。

 

マクシミリヤンとヴァランティーヌはモンテ・クリスト伯を探しますが、すでに最愛のエデと共に旅だった後でした。二人ははるかかなたの水平線に浮かぶ伯爵の船を見送りながら、いつの日か再会することを願い、伯爵の最後の言葉を胸に刻むのでした。

 

  

 感想

 「人間、辛抱だ!」と言ったのは二子山親方ですが(昭和のCMでね)、すでに19世紀のフランスでモンテ・クリスト伯の名言があったんですね。「待て、しかして希望せよ!」と。

 

とは言っても待たせすぎでしょ。ヴァランティーヌが生きていることを早くマクシミリヤンに教えてやれよ!春日八郎の「死んだはずだよお富さん♪」の歌詞がマクシミリヤンの頭にリフレインしたことでしょう。「生きていたとは、お釈迦様でも知らぬ仏のお富さん♪」(しつこいか・・)

 

でも14年も獄中生活を強いられたダンテスにとって、ここは未熟な若者に人生訓をたれたくなる場面でもあります。「おれの若い時はこんなもんじゃなかった」「あの時の経験があるから今の自分がある・・」職場のおじさんにたくさんいますよね、こんな人。

 

 たしかに成功や幸福を手にするためには多くの失敗や苦労が必要かもしれません。でも苦労が必ずしも将来の幸福を約束するわけではないとうのが辛いところ。「今はしんどいけど、希望を持って頑張る!」と自分を鼓舞するしかないわけです。希望通りの結末でなくても、もっと素敵なハッピーエンドが待っているかもしれません。蒔いた種は必ずしも自分が思った花ではないかもしれませんが、予想もしなかったもっと大きな花が咲くこともあるのですから。

 

マクシミリヤンはモンテ・クリスト伯の言うとおり1か月我慢したおかげで、伯爵の財産を丸ごと手にし、死んだはずの恋人とも結ばれるという怒涛のハッピーエンドを迎えます。うらやましいやつ!ちゃんと贈与税は払ったんだろうな?

 

一方悪役のヴィルフォール、ダングラール、モルセール伯には悲惨な結末が待っています。でもなぜか次第に悪役の方に肩入れしたくなるんですよね。物語の前半は悪役として登場しますが、中盤からはぞれぞれの家族事情が描かれ、そちらの話に引き込まれていきます。「どこの家族も大変だねぇ」みたいな。一方モンテ・クリスト伯はとんでもない大金持ち。発言も浮世離れしたものが多く次第に感情移入しにくくなっていくのです。また復讐もやりすぎ。家族を巻き込んではダメでしょう。復讐はターゲットを絞らないと。伯爵自身も幼いエドゥワールが死んだあたりで「やっぱやりすぎたかな~」とか今更ながら後悔しますが、気づくのが遅すぎです。どっちが悪役だかわからなくなります。

 

でも娯楽小説だから別に良いのです。面白ければね。ドストエフスキーみたいに「深いよね~」とか言って難しいことを考える必要はないのです。モンテ・クリスト伯は一級のエンターテイメント小説。気楽に読んでみてください。

 

買え!しかして読書せよ

 

モンテ・クリスト伯〈7〉 (岩波文庫)

モンテ・クリスト伯〈7〉 (岩波文庫)